対象疾患
脳腫瘍センターでは、良性腫瘍、悪性腫瘍のどちらも扱います。
脳腫瘍のことをがんとは呼びませんが、なかには悪性のもの、すなわちがんに同等のものが含まれます。私たちは、全員ががん治療認定医を取得しており、良性、悪性を問わず脳腫瘍の専門家集団です。
脳腫瘍の治療法は、種類によって千差万別ですので、正確な診断のもとに、各々の患者さんに最適の治療を行います。
詳細な情報は、脳神経外科のホームページの「脳腫瘍」の項目をご覧ください。
脳腫瘍センターの治療対象となる脳腫瘍
1.原発性脳腫瘍
良性脳腫瘍
- 髄膜腫
- 下垂体腺腫(内視鏡手術)
- 聴神経鞘腫
- 頭蓋底腫瘍
- 頭蓋咽頭腫
- 脳室内腫瘍
- 小児脳腫瘍など
悪性脳腫瘍
- グリオーマ
- 悪性リンパ腫など
2.転移性脳腫瘍
医療の進歩は日進月歩で、腫瘍の治療方法は手術だけではありません。腫瘍の種類によりますが、放射線治療、化学療法、電場療法など、様々な治療法があり、各々の患者さんにあわせて、それらを組み合わせて、最善かつ安全な治療を提供します。このような治療を集学的治療と呼びます。
合同カンファレンス
このような集学的治療を行うにあたり、もっとも重要なことは、診療を行う側が、診療科を超えて、連携を強めることです。
私たちは、脳腫瘍と診断された時点から、手術前後、術後療法、維持療法、外来フォローアップに至るまで、診療チームでのカンファレンスを定期あるいは不定期で開催し、ひとりひとりの患者さんの最適な治療方法を検討します。
手術
手術は、脳神経外科で行います。手術の目的は、腫瘍を取り除くことによって、
(1)現在、既に出現している症状を軽減し、
(2)今後増悪していく可能性の高い症状、近い将来生じると考えられる様々な症状が出るのを防ぐこと、
(3)生命予後を延長すること、の3つです。
手術により腫瘍を完全摘出することが理想ですが、同時に、正常な脳機能を損なわないことも重要です。特に、運動機能や言語機能、視機能は、もっとも重要な機能ですので、それらの機能を温存するために、ナビゲーションシステム、電気生理モニタリングシステム、覚醒手術など、あらゆる手術支援モダリティを用いて手術を行います。
手術により摘出された組織は、病理検査により、最終的な病理診断がなされます。これに従い、その後の治療方針が決定されます。治療方針の決定は、脳腫瘍センターの医師による合同カンファレンスでなされます。
脳腫瘍は、正常神経と隣り合わせで発生します。
そのため、治療においては、手術に限らず、正常な神経を傷つけないように腫瘍をコントロールして治癒を達成することが求められます。このように、脳腫瘍の治療は非常に高度の技術が求められます。
化学療法
悪性の脳腫瘍にも抗がん剤が効きます。
「抗がん剤」とはどんなお薬でしょうか?
それを知るには、まず正常な細胞と癌細胞の違いを知る必要があります。正常な細胞は、その種になる細胞(幹細胞)から分裂して、それぞれの器官で機能の特化した細胞に分化します。脳の細胞は、神経細胞とグリア細胞のふたつの種類の細胞から構成されます。そのどちらもが、もうそれ以上は分裂増殖することのない細胞です。対して、がん細胞はとめどもなく分裂を続ける細胞です。分裂する細胞では、細胞の司令塔と呼ぶべきDNAやRNAがどんどん作られています。抗がん剤はそのDNAやRNAの合成を妨害します。ですのでDNAやRNAを合成していない正常な細胞に対しては、ほとんど毒性を示しません。つまり、正常な細胞を傷つけることなく、癌細胞だけをやっつけることができるのです。これ以外にも、がん細胞だけにたくさん存在するタンパクの働きを妨害する分子標的薬も有効な治療薬です。
ただし、体の中の正常な細胞でも、日々活発に分裂を続ける細胞があります。それは、骨髄の造血細胞、消化管の粘膜細胞、髪の毛をつくる細胞などです。つまり、ここが副作用が出るところです。
抗がん剤といえば、つらい副作用をイメージする方もおられるでしょうが、全部のお薬がつらい治療ではありません。悪性グリオーマに対するテモゾロミドという薬剤は、強い副作用はありません。なかには、副作用が強い薬剤もありますが、吐き気などの副作用をコントロールする新しい薬剤も開発され、ひと昔前に比べると、ずいぶんと治療は変わっています。
多数の薬剤を同時に使用する強力な治療は、血液内科の専門医が行います。
放射線治療
当院には、腫瘍に対して最大限の照射量を与えつつ、周囲の正常脳への漏れを最小限にすることができる、超高精度の放射線治療機(ノバリスTx)があります。周囲を正常な脳神経に囲まれた脳腫瘍は、この治療機器を用いた治療の、もっともよい標的といえるでしょう。
放射線治療といえば、悪性腫瘍に対する治療法のイメージですが、良性の脳腫瘍に対しても使用することがあります。脳腫瘍は、良性・悪性を問わず正常な脳機能を妨害します。たとえ良性であっても脳幹などの脳の深部で重要な神経機能が集中している場所に発生した場合には、重大な神経障害を引き起こします。また、それを、脳機能を損なうことなく全摘出して治癒を得ることが困難な場合もあります。そのような腫瘍では、まず神経機能を損なわない範囲で最大限に腫瘍を摘出し、残った腫瘍に対して放射線治療を行います。
交流電場療法
悪性グリオーマに対する治療法は、手術、化学療法、放射線治療が3本柱でしたが、第4の治療法として交流電場療法が加わり、予後は更に改善しました。当院ではいちはやくこの治療法を導入しています。詳しくは「交流電場療法」のページをご覧ください。
がんゲノム医療
体の中にできる腫瘍は、良性、悪性を問わず、遺伝子の異常が原因で発生します。近年、分子生物学の技術と知識は急速に発展しており、多くの腫瘍でその原因となる遺伝子が特定されるようになってきました。なかには、その原因遺伝子を標的にした治療薬が開発されているものもあり、治療への応用が進んでいます。
ただし、個々の患者さんでどの遺伝子の異常が関わっているかは、多種多様であるため、ひとつずつ遺伝子を調べていたのでは間に合いません。そこで、多数の遺伝子を同時に解析することで、効率的に異常を発見することができます。このような検査を「がん遺伝子パネル検査」と呼びます。癌種によっては、検査結果にしたがい、最適の薬物や治療法を患者さんごとに選択して行うことができます。このような治療を「プレシジョンメディスン」と呼びます。
当院は、がん拠点病院、ゲノム医療連携病院に指定されており、香川県における悪性腫瘍治療の中核病院です。がん遺伝子の検査と治療は、当院のがんゲノム医療センターで行うことができます。