最終更新日:2022/03/15

早期からの緩和ケア

緩和ケアあるいは緩和治療は、がんに対する治療ができなくなったら始めるもの、というイメージがまだまだ一般的ですが、実はそうではありません。現在ではなるべく早い時期からつらさをやわらげる緩和治療を開始することが大切だと考えられています。早い段階から緩和治療を受けた患者では通常の抗がん治療のみを受けた患者に比べて、生活の質(QOL)が改善され、予後にも良い影響があるという調査報告もあります。
治療を含めてがんの療養生活には痛みや吐き気などつらい症状を伴うことも少なくありません。また、心がつらくなることもしばしばです。身体や心のつらさが大きいと、それによって体力を消耗することがあり、がんの治療を続けることが難しくなることもあります。緩和ケア内科では担当医や院内緩和支援チームと連携して、初めて病気の説明をうけられた後、あるいはこれからがんの治療を受ける段階から、今後の治療のことなどを安心して取り組んでいけるようにサポートしてゆきたいと考えています。
緩和ケアは、がんと告げられがんに対する治療(手術や抗がん剤治療)が始まった時から開始し、がんに対する治療が終了した後もずっと継続して行うものです。緩和治療・ケアの目的は抗がん治療などの目的と同じく、がんと上手に共存してゆくことです。大きな意味でがん治療の一環である、と考えて頂ければと思います。
緩和ケアでのサポートは多岐にわたっているため、それぞれの専門である多職種チームで対応いたします。

気がかりなことの聞き取り、情報提供

がんの治療が行うにあたっては、それぞれに異なる様々な不安や気がかりがあると思います。診断を告げられたけれど、それがどのような病気で今後どうなるのか、また治療法についても選択肢を説明されたが、どのように考えて決めればよいか、などです。今後の治療に伴う生活の変化や、医療費のこと、ご家族の負担やあるいはご家族への病気の説明ことなど、の心配もあるでしょう。
このような不安や動揺、気がかりなことをお聞きし、これからのことやその中であなたが大切にしてゆきたいことを一緒に考えてゆきます。
相談支援センターや緩和支援チームと連携し、その時点で気がかりなこと、つらいことをお聞きしたうえで必要な情報提供や辛さに対する治療を行ってゆきます。

身体症状の緩和治療

痛みや吐き気などがんの治療中に体の不調が出ることは多くみられます。そのつらさを我慢していると体調が悪くなったり気持ちが落ち込んだりして生活の質が大きく低下しますので、そのつらさをやわらげる対処を行う必要があります。
まずは、現在感じているつらさを担当医や看護師にお伝えください。そのつらさへの対応が一般的な治療やケアで困難な場合は、当科で専門的治療を考えますので、専門的緩和ケアについて担当医や身近な看護師へご相談ください。

痛み

もっとも多く出現し、つらいと感じられる症状です。痛みを取るためには一般的には鎮痛薬を使用します。鎮痛薬も進化しており、多くの場合は薬でお痛みがコントロールできます。しかし鎮痛薬を調整しても十分痛みが取れない場合や突然劇痛が生じた場合は、緩和ケア内科での専門的な治療が必要になります。放射線治療や手術などで痛みが軽減する可能性がないか主治医や専門の医師と相談したり、神経ブロック治療など専門的な痛みの治療が必要であると考えられたら、必要な治療を行います。現状で考えうる最大限の痛み治療を行うことが可能です。

鎮痛薬について

鎮痛薬は大きく分けて

  1. 消炎解熱鎮痛薬
  2. 麻薬系鎮痛薬
  3. 鎮痛補助薬

の3種類があります。これらを痛みの状況に合わせて、単独あるいは組み合わせて使用してゆきます。
医療用麻薬については誤解されている方も多いのですが、大麻や覚せい剤などとは全く別のもので、適切に使用する限り、中毒になることはありません。また、長期使用しても余命に影響はなく効果が薄れることはありませんので、早くから使っていたらいざというとき効かないのではないか、などと考えて我慢する必要はありません。
ご自身が使われている鎮痛薬の詳しい説明をご希望の方は、薬剤師などが説明する機会をもうけますので、お申し出下さい。

息苦しさ

酸素吸入が主体ですが、薬の治療で息苦しさをやわらげることも可能なこともありますのでご相談ください。

吐き気

まずは原因を考えます。担当医と相談しながら、可能な限り原因を取り除く治療を行ったり、薬による治療を行います。

倦怠感(力が出ない、体がだるい)

終末期になると薬での治療が困難な場合も多いのですが、適切なリハビリテーションで改善することもあり、緩和支援チームと連携して考えてゆきます。

その他

個々の状況にあった治療を考えてゆきます。

担当

緩和ケア内科医師が、担当医、緩和ケアに関する専門・認定看護師、緩和支援チームなどと連携して治療・ケアを行ってゆきます。

精神症状の緩和治療

気持ちのつらさ、不眠

がんという病名を聞いたとき、あるいは病状の悪化を知らされたときには、ほとんどの方が動揺し、気分の落ち込みを経験されます。しばらくすると、不安を抱えながらも落ち込みから立ち直り、前向きに生活されるようになることが多いのですが、落ち込んだまま何もする気が起きなくなったり、夜眠れなくなったりする場合もあります。内服治療や臨床心理士によるカウンセリングなどで落ち込みや不眠が改善される場合もありますのでご相談ください。

せん妄

お体の状態が悪化したり、環境が急激に変化したこと(予期せぬ入院)などで意識障害が起き、出現する症状です。つじつまの合わないことを言ったり、居場所や日付がわからなくなったり、突然怒ったりするため、ご家族からは頭が変になってしまったと驚き嘆かれることもしばしばです。治療が困難な場合もありますが、身体の状態や使用薬剤により生じている場合は治療によって改善することも期待できますので、その診断治療も行っています。

担当

当院では、緩和支援チームの一員として精神科医師(非常勤・週1回)が主に病棟の精神症状の診察・治療を行っています。
現在精神科の外来診療は行っておりませんので、外来の患者様については当科で治療を考えますが、必要に応じて専門医への紹介も行います。
また状況に応じて、臨床心理士による心理テストやカウンセリングを行います。

療養環境にかかわるサポート

緩和ケアは

  • 一般病棟に入院中
  • 外来通院治療中
  • 自宅での療養中
  • 緩和ケア病棟入院中

など、どのような状況でも切れ目なく受けられることを目指しています。
また、私たちは、がん治療を行っている間や行っていないときでも、本人が一番すごしたい場所ですごせることが本人やご家族にとっても大切なことだと考えています。
そのため、当院のほかに、ご自宅近くにかかりつけ医を持ち日頃の相談を受けてもらえる体制を作ること、さらにご自宅での生活について不安が強い場合には、介護保険を利用したサービスや、訪問看護を受けること、などをお勧めてしています。またどうしても自宅療養が困難な場合には当院以外の入院先を考える必要が生じることもあります。公共サービスの利用や療養先についての情報提供や相談など、相談支援センターや担当看護師、緩和支援チーム(特に医療ソーシャルワーカー)と連携して一緒に考えてゆきますのでご相談ください。