頭頸部腫瘍・頭頸部ガン
頭頸部とは、鎖骨より頭側で脳、脊髄、眼球以外に生じる疾患を示します。頭頸領域で最も重要なのは頭頸部ガンの診療です。頭頸部がんは更に口腔ガン(舌ガン、下顎歯肉ガン、頬粘膜ガン、上顎歯肉ガン、口腔底ガン、硬口蓋ガン)、咽頭がん(上、中、下)、喉頭ガン、唾液腺ガン、鼻副鼻腔ガン、甲状腺ガン等に分けられます。この部位は人間にとって必要な嚥下機能、咀嚼機能、発声機能、呼吸機能を有する部位です。例えば、口腔ガンは容易に周囲臓器に進展し頸部のリンパ節転移を起こしやすいため、一つの部位に止まった治療には限界があります。
また、手術による臓器欠損部位の補充のため皮弁移植を行い、機能回復に努めねばならず、嚥下・咀嚼機能を熟知した頭頸部外科医でなければ、例え癌が制御できても食事がうまく取れなかったりする可能性があります。最近では頭頸部ガンも放射線+抗がん剤で治療可能なケースも増えており、治療にあたり患者さんの全身的な管理も必要です。よって頭頸部ガンの治療を行うには、頭頸部全領域の専門知識が要求されることになり、すべての頭頸部ガンには耳鼻咽喉科・頭頸部外科が中心となり、他科と協力してチーム医療をしていく必要があります。
口腔・咽頭疾患
歯牙以外の口腔から咽頭疾患を扱っており、当院で多いのは口腔ガン、咽頭がんです。口腔・咽頭は食事をかみ砕き(咀嚼)後方へ運び飲み込む(嚥下)のに重要な役目をしています。この部位にガンができると治療後に咀嚼・嚥下障害が起こることがあり、食事がうまく食べれなくなる患者さんがおられます。この咀嚼・嚥下障害の評価、診断を行うのは耳鼻咽喉科医がしなければなりません。必要であれば他科と協力し治療しなければならず、我々はその旗振り役になっています。その他、慢性扁桃炎、扁桃腫大、IgA腎症による扁桃摘出術は年間70例程度しています。炎症疾患では急性扁桃炎、急性咽頭炎があり、咽頭痛で食事ができない場合や咽頭の腫れで呼吸苦がある場合は入院加療ができる体制にしています。咽頭、扁桃が原因で睡眠時無呼吸症候群になっている場合もあり、当院では耳鼻咽喉科が検査、加療を行っています。
喉頭疾患
喉頭とは空気の通り道(気道)であり、頸部ののど仏にあたる部位に存在します。喉頭は、気道以外にも発声したり嚥下(ご飯を飲み込む)するときにも重要な役割を果たしています。この部位の代表的疾患はポリープであり、大声をよく出す人、歌手、喫煙者で頻度が高く、かすれ声の原因になっています。この疾患は適切な発声指導、手術により改善します。炎症疾患としては急性喉頭蓋炎という恐ろしい病気があり、炎症が高度で初期対応が遅れた場合、嚥下障害や息が出来なくなり救急搬送される事があります。耳鼻咽喉科で最も多い悪性腫瘍は喉頭ガンです。喫煙が原因の生活習慣病で早期に発見できれば放射線治療で多くが治すことができます。進行癌の場合でも可能な限り機能温存手術に努めています。声を出す神経を反回神経と言いますが、様々な疾患(食道がん、肺がん、解離性大動脈瘤、甲状腺がんなど)で神経が麻痺をお越し、かすれ声になります。これら疾患を加療し、しばらくしてもかすれ声が改善しない場合は音声改善手術にて症状を改善するように努めています。
鼻副鼻腔疾患
当院で治療可能な代表的な疾患としては、アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎、術後性副鼻腔嚢胞、鼻出血症、顔面外傷(鼻骨骨折、眼窩骨折)、嗅覚障害、鼻副鼻腔腫瘍など挙げられます。
アレルギー性鼻炎や慢性副鼻腔炎などで内服治療に抵抗する場合、手術加療で改善することも多く経験します。ほとんどの手術は内視鏡を使用し鼻の中だけで安全に行うことが可能です。
手術は基本的に入院下で行っており、ほとんどの例で1週間以内で退院が可能です。
またアレルギー性鼻炎に対する免疫療法は県内でも施行している病院は数少ないですが、当院では積極的に取り組んでおり、入院して急速に免疫療法を行ったり、さらに手術を加えて行うことも可能です。
耳科疾患
耳科疾患では、難聴を訴える方が非常に多いです。聞こえの神経がだめになっていしまう老人性難聴や突発性難聴等があります。老人性難聴は残念ながら内服にて改善する見込みは低く、補聴器などによって聴力改善に努めています。突発性難聴は救急疾患の一つで早期に内服治療をすることで改善する場合があります。一方、難聴でも手術で改善する難聴もあり、慢性中耳炎や真珠腫性中耳炎、耳硬化症が代表に挙げられます。中でも、もっとも多い疾患は慢性中耳炎で、以前から鼓膜に穴が開いており、耳漏が持続する場合、手術により聴力が改善する場合があります。めまいも耳鼻咽喉科が良く遭遇する疾患で、多くは内耳が原因です。特殊な内耳機能検査にてめまいの原因を追究しますが,時に中枢性のめまい(脳からくるめまい)の事もあり注意が必要です。小児では急性中耳炎、滲出性中耳炎が非常に多く、当院ではガイドラインに沿った適切な治療を行っています。その他、救急疾患の一つである、顔面神経麻痺や外傷性疾患も24時間加療できる体制にしています。
耳鼻咽喉科救急疾患
耳鼻咽喉科救急疾患で多くみられる疾患は鼻出血、めまい、外傷(鼻骨骨折、眼窩底骨折)です。多くは簡単な処置や投薬で改善することができますが、中には入院治療や手術治療が必要になったり、他科と協力して治療にあたらないといけない場合もあります。特にめまいは入院してから進行して中枢性めまい(脳梗塞等)と判明した経験もあるため注意が必要です。急性喉頭炎や頸部膿瘍は生死にかかわる疾患であり、咽頭痛みのある患者さんに対して、耳鼻咽喉科医はこの疾患を念頭に置いて検査をします。緊急入院は必要ですが、呼吸不全が進行して緊急手術が必要になることがあります。当院では24時間入院・加療できる体制を整えています。
睡眠時無呼吸症候群
睡眠時に呼吸障害を呈する代表的な疾患が睡眠時無呼吸症候群です。2003年2月の山陽新幹線の運転士の居眠り運転事故以来、マスコミでも頻回に取り上げられるようになりました。睡眠中に呼吸が止まったり(無呼吸)、呼吸が弱くなった状態(低呼吸)やいびきは、睡眠時無呼吸症候群と極めて密接に関連しています。一般的に1時間にこの状態(10秒以上の無呼吸もしくは低呼吸)が5回以上ある場合を睡眠時無呼吸症候群と定義します。この1時間あたりの回数を無呼吸低呼吸指数(AHI:Apnea Hypopnea Index)といい、重症度を決めるときに使用します。5~15回を軽症、15~30回を中等症、30回以上を重症と医学的に分類されます。
睡眠時に繰り返し起こる無呼吸のためにしばしば覚醒反応が起きてしまい、そのために良質な睡眠が障害され、その結果日中に過度の眠気が生じ、仕事の能率低下などを招きます。また睡眠呼吸障害は高血圧症・不整脈などの循環器疾患や肥満などの生活習慣病に深く関わっています。
検査方法
検査
- 診察
鼻腔・咽喉頭など、睡眠呼吸障害の原因となる疾患がないか診察します。 - 心電図、採血
心疾患、高脂血症などの生活習慣病のチェックを行います。 - 簡易型睡眠検査(在宅)
自宅で出来る簡便な検査です。ご自身で機械の取り付けをして頂きます。寝る前に鼻・胸部・腹部・指にセンサーを付け、呼吸状態・体内の酸素濃度を評価します。睡眠状態は測定されません。スクリーニングの検査となります。睡眠時無呼吸症候群の診断のためは、次に示す終夜睡眠ポリグラフ検査が必要になることがあります。検査料は3割負担の場合で、約3000円です。 - 終夜睡眠ポリグラフ(入院)
睡眠時無呼吸症候群の確定診断に必要な検査です。 頭・目の周り・あご・鼻・胸・腹・指・のど・脚にセンサーを付け、睡眠状態・呼吸状態・体内の酸素濃度などを評価します。1泊2日の入院での検査です。検査料は3割負担の場合で、入院費込みで約35000~40000円です。(食事代、個室代込み)
治療方法
治療
- CPAP(経鼻的持続気道陽圧療法)
中等度~重症の方に適応となります。睡眠中に鼻にマスクを付け、持続的に陽圧の空気を送り込み、上気道を陽圧状態に保ち、閉塞部位を広げ、気道閉塞(無呼吸)を予防する治療法です。 CPAP装着期間中に生活習慣病の改善を行い、最終的にCPAP装着が不要になるのを目指します。 - 肥満治療、飲酒量の減量、歯科装具
- 手術療法
鼻やのどに疾患のある方は治療の対象となることがあります。特に小児の睡眠呼吸障害の原因のほとんどはアデノイド(咽頭扁桃)・口蓋扁桃によるものであり、外科的に切除することで、症状の改善が期待出来ます。
嚥下障害
嚥下とは、口の中に取り込まれた食べ物を、うまく丸め込んでノドを経て食道に送り込む反射運動です。日常、我々は何の意識もせず、この運動を行っていますが、この経路に障害が起きると上手に食事がとれなかったり、食事が気管に誤って入り込んでムセて誤嚥性肺炎の原因になったりします。当科がよく遭遇する嚥下障害の原因は大きく分けて2つあります。1つは、頭頸部疾患術後の嚥下障害で、口腔ガンの術後に舌が動きにくく、食事を奥にうまく運べなかったり、咽頭がんの術後に食事は奥に運べるが飲み込むときにムセて食事がうまく食べれない例を時々経験します。もう一つは中枢性の嚥下障害で、脳梗塞発症後や神経筋疾患(パーキンソン病、重症筋無力症、筋委縮性側索硬化症等)で嚥下の指令が遅れるため食事を飲み込むタイミングがずれてムセたりします。耳鼻咽喉科・頭頸部外科では嚥下障害がどの部位で起きているのかをリハビリ科と協力して検査をし、リハビリや手術治療を行っています。