最終更新日:2023/03/23

頭蓋底外科

頭蓋底(ずがいてい)は 「頭(ず)が痛てー」のか?

 脳は、頭蓋骨の中におさまっていますが、脳の底部とそれを支える頭蓋骨の底面の部分は特殊な領域で、「頭蓋底」と呼びます。ここには、大脳の底部、下垂体、小脳、脳幹と、そこに出入りする12対の脳神経と、脳を栄養する重要な血管(内頚動脈、椎骨-脳底動脈とその分枝,海綿静脈洞、S状静脈洞など)が密集し交錯していて、非常に複雑な構造をしています。
 この頭蓋底には、脳腫瘍(良性、悪性)や、脳動脈瘤、三叉神経痛、外傷など様々な疾病が発生します。また、顔面や耳鼻科領域の病気(副鼻腔がん、顔面骨折、頭蓋底骨折)とオーバーラップすることもあります。いずれの疾病も、生命に関わる症状、あるいは生活の質を大きく阻害する症状の原因となります。症状は「頭が痛てー」とは限らず、視力・視野障害や、複視、顔面の知覚・運動障害、聴力障害、嚥下障害など頸から上の脳神経症状が特徴です。

頭蓋底外科の特徴

 頭蓋底は、表面から深い場所に位置しており、繊細な血管と神経が複雑に絡んでいるため、病変部への手術アプローチは容易ではありません。腫瘍を摘出しようと思ったら、その手前に大事な神経や血管があって、正面からは到達できない、あるいは頭蓋骨が邪魔になって腫瘍に届かない、といったようなことがおこります。ということは、むしろ治療する側のほうが「頭が痛てー」病気かもしれません。従って、手術の難易度は極めて高く、高度な知識と技術、経験が求められますので、脳神経外科手術の中でも最高峰の手術と言って過言ではないでしょう。
 頭蓋底の病変に、脳神経や血管を傷つけることなく到達するためには、脳を軽く圧排したり、髄液を抜いたりして脳と頭蓋骨の間の隙間を広げて作業スペースを確保しますが、それだけでは足りない場合は、ドリルを用いて頭蓋骨の一部を切削して、スペースを確保します。このドリルの操作が、脳神経や血管に対する負荷を軽減し合併症リスクを減ずるために重要で、頭蓋骨の細かい解剖の知識と、精密な技術が要求されます。

頭蓋底を上から覗いたらこんな感じです

 CT断層撮影をもとに、立体的な3D画像を作成できます
 バーチャルリアリティのような画像で、詳細な手術計画をたてることができます

手術支援装置の進歩と技術の進化

 脳神経外科手術では、微小な構造を視認するために手術用顕微鏡を用いるのが主流ですが、近年はナビゲーションシステムや、神経内視鏡、蛍光血管造影、電気生理モニターなど様々な手術支援装置(モダリティ)が進歩しています。ナビゲーションシステムは、術中にリアルタイムで腫瘍の位置を把握するツールとして不可欠になりました。
 脳神経外科専用に開発された高画質の内視鏡を用いれば、深く狭い術野でも手術を行うことが可能になっています。
 蛍光色素を静脈注射すると、脳の血流が術中にリアルタイムで確認できます。 このように、手術支援装置の進歩はめざましく、かつては到達不能といわれた頭蓋底にも治療域が拡大しています。私たちは、手術効果の確実性、安全性を向上させ、また手術の侵襲度を低下させ、最良の手術結果が得られるよう、積極的に新しい技術を取り入れ、それを最大限に活用できるよう進化し続けています。

経鼻内視鏡手術

下垂体腫瘍(下垂体腺腫・頭蓋咽頭腫など)の手術では、鼻の孔を経由して頭蓋底の骨に小さい穴をあけて病変部に到達して、開頭術を行わずに腫瘍摘出を行うことができます。内視鏡手術の最大のメリットは、手術侵襲度の低さです。

ハイブリッド手術

 死角が生じてしまうことがあります。死角が多くなれば、見えない腫瘍の一部を取り残したり、無理をして大事なものを傷つけたりというリスクが生じます。そこで、この死角を観察しながら手術操作するための方法として、私たちは顕微鏡手術に内視鏡を併用するハイブリッド手術を開発しました。
この方法を、頭蓋底に発生した腫瘍の摘出や、動脈瘤のクリッピング術などに応用しています。

脳外科-耳鼻科合同手術

 前方の頭蓋底は、脳と鼻腔の境界になります。ここに発生する腫瘍は、ときにその両方にまたがって大きくなることがあります。
脳側の腫瘍と鼻がわの腫瘍を別々の手術で摘出することも可能ですが、私たちは、耳鼻咽喉科と合同で、開頭による顕微鏡手術と鼻からの内視鏡手術を同時に行うという方法をとります。
同時に摘出することには大きなメリットがあります。まず、1回の手術ですみますので、患者さんの負担が減ります。また、頭側と、鼻側の両方から手術するということは、ほぼ反対方向から腫瘍をみることになりますので、一方からの術野で死角になるところを、他方からみればよく見える、ということになります。つまり、ふたつの方向からの手術が相補的になるということです。