ドクヘリ時代の脳卒中診療
■ドクターヘリのメリット
皆さんのご存じのとおり、2022年4月の香川県のドクターヘリ(ドクヘリ)導入のニュースは、私たちに大きな希望をもたらしてくれましたが、実臨床の場において、何が変わり、患者さんへの恩恵はどれだけ増えるのか、具体的にはイメージしにくいかもしれません。実は、脳卒中医療の現場において、とても大きなメリットをもたらしています。
まずは、ドクヘリのメリットについて説明しましょう。
① 搬送時間の短縮
ドクヘリは、その機動力を生かして、香川県に多い島しょ部や医療機関の少ない山間部などから、高度医療を受けることが可能な病院へ短時間で搬送することが可能です。地理的にコンパクトな香川県では、ドクヘリの基地病院である香川県立中央病院や香川大学附属病院から県内全域に10〜15分程度で到達できます。なお患者さんの搬送時間は救急車の1/3〜1/5と言われています。
②早期治療介入
ドクヘリは搬送時間の短縮が注目されがちですが、本来の目的は患者さんの元へフライトドクター・ナースを送り届け、よりはやく診断・治療を開始することです。ドクヘリは、現場に近いランデブーポイントと呼ばれる場所で救急隊と合流し、救急車内で初期診療を行います。この早期介入までの時間は、救急車で病院に搬送されてから診療が開始されるのに比べて、約30分短縮できると言われています。また、現場の医師の判断により、患者さんの病状に応じて適切な医療機関を選定し搬送することが可能となります。これらによりどこに住んでいても高度な医療を受けることができる、つまり”医療の地域格差を無くす”ことが可能となります。
■脳卒中救急医療への貢献
脳卒中(脳出血・脳梗塞など)の場合、治療開始の1分1秒の遅れが後遺症の程度に影響してくるため、今回のドクヘリ導入による治療開始までの時間短縮は大きなメリットとなります。特に急性期脳梗塞に関しては、血栓溶解療法(t-PA)や血栓回収療法 の治療適応となるタイムリミットが定められているため、搬送時間の短縮により治療の恩恵を受けられる患者さんが増えることが期待されます。血栓溶解療法(t-PA)を受けられる医療機関は香川県全域にありますが、血栓回収療法 が可能な医療機関は数少なく高松市内に集中しているため、遠隔地には最新の治療の恩恵を受けられていない患者さんが多くいる可能性があります。特に血栓回収療法の適応となる患者さんは重症であることが多く、治療の遅れが重度の後遺症を残す結果につながりかねません。そのためドクヘリによる治療開始までの時間短縮はとても大きなメリットとなります。 私たち脳神経外科は、より多くの県民を脳卒中から護るため、ドクヘリの有効かつ適正な運用に務めて参りたいと思います。