最終更新日:2024/10/15

脳卒中救急医療アップデートセミナー in KAGAWA 2022

脳卒中救急医療アップデートセミナー2022

脳卒中は突然に発症し、放置すれば身体機能を著しく損ねてしまう恐ろしい病気です。脳卒中患者を救うためには、一刻もはやく正確な診断と的確な治療を施すことが重要ですが、そこにたどりつくためのアクションは病院前からスタートしています。
今年は、ドクターヘリが導入され、香川県における救急医療の発展に寄与することが期待されています。脳卒中診療においても、その有用性は言を俟たないところです。
一方で、近年、脳卒中救急医療の進歩はめざましく、新しい治療法がどんどん取り入れられています。また、脳卒中治療ガイドラインも年々バージョンアップされています。
新しい治療法とガイドラインのアップデートを、現場で働く皆様に広く知っていただき、明日からの救急医療に役立てていただきたいと切に願います。
昨年の9月に第1回のセミナーを開催しましたが、多数の消防隊員の方にご参加いただき、たいへん好評で盛会のうちに終わらせることができました。また、コロナ渦にあって参加できなかった方も多くいらっしゃいましたので、多くの方から再開催のご要望の声を頂戴しました。今回は、現地とウェブのハイブリッド開催で、より参加いただきやすい形式としております。 皆様のご参加をお待ちしています。

内容

日時 2022年7月13日(水)  18時30分~19時50分
場所   パールガーデン高松 インペリアル
開催形式 ハイブリッド 会場参加希望者は50名(申し込み先着順です)
オンライン参加は無制限

プログラム

開会のあいさつ      病院長 高口浩一
1 出血性脳卒中の治療アップデート
             脳神経外科 西廣 真吾
2 ドクヘリ時代の脳卒中診療:急性期血栓回収療法
             脳神経外科 高橋 悠
3 ブレインハートチーム:脳卒中の二次予防
             循環器内科 大河 啓介
4 脳卒中治療の展望
             脳神経外科 藏本 智士
5 総合討論 パネリスト
            高松市消防局 一二三 淳 様
            高松市消防局   安西 一正 様
            高松市消防局   後藤 隆文 様
閉会のあいさつ     救急部    佐々木和浩

共催

    香川県立中央病院 脳神経外科・救急部
    ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社
    コーディネーター 脳神経外科 市川智継 

盛会終了のお礼

 この度は「脳卒中救急医療アップデートセミナーin KAGAWA 2022」にご参加いただき誠にありがとうございました。おかげさまで昨年の参加者数104名をうわまわる、113名の方にご参加いただき、盛会のうちに終えることができました。これも皆様のご協力のおかげです。心よりお礼申し上げます。
今回のセミナー参加者(113名)のうちわけは、消防隊員69名、病院職員44名でした。今年は、コロナの影響を考慮してウェブ併催としましたが、現地参加が33%、オンライン参加が67%と、ウェブ参加者が3分の2を占めていました。セミナーの内容は大変好評で、特に脳梗塞の新しい治療法の紹介は大きな注目を集め、それを患者さんに適切に届けるためには病院前救護体制と病院の協力が重要であることがハイライトされました。また、今回は総合討論のセッションを設けて、病院側と救急隊の皆様で意見交換を行うことにより、双方向性の前向きなディスカッションができたことも、大きな成果と思います。
今回のセミナーを通して、皆様と脳卒中救急医療の最前線の情報を共有することができて、香川県民の健康に帰することができる会になったと思います。香川の救急医療を更によいものになりますよう、私たちは、現場の声がより多くの人に届くように、務めて参りたいと思います。 依然としてコロナが猛威を振るう中、最前線で働かれている皆様に敬意を表しますとともに、皆様のますますのご健勝と、香川県の救急医療の発展、患者さんのよりよい予後を祈念して、盛会終了のご挨拶とさせていただきます。

コーディネーター 市川智継(香川県立中央病院脳神経外科)
主催者一同

会場写真

参加者構成

参加者構成円グラフ
消防隊員の所属地図

アンケート結果の公表

アンケート回答率

会の終了後に皆様にご協力いただきましたアンケートの結果が出ましたので、ここにまとめてご報告申し上げます。ご参加いただきました皆様のご協力のおかげで、ウェブ併催としては非常に高い回答率が得られています。これは皆様の今回のテーマと課題への興味の高さを反映しているものと推察いたします。そこで、アンケート結果のフィードバックにより、これからの香川県の救急医療に貢献できるよう、ここに結果を公表することにいたしました。

職種、所属

現地参加、ウェブ参加あわせて93人(82.3%)の方からアンケートの回答をいただきました

職種、所属円グラフ

セミナー参加歴

☐はじめて ☐昨年も参加

セミナー参加歴

解説:今回のセミナーは昨年に続き2回目になります。約3分の1の方が2回目の参加となっており、関心の高さを反映していると思われます。

セミナー参加の現場への影響

質問 「2回目の参加の方にお聞きします。昨年のセミナーに参加してから、脳卒中疑いの患者に対応する際の意識が変わったと思いますか?」
☐思う ☐思わない ☐わからない

セミナー参加の現場への影響円グラフ

解説:昨年のセミナーに参加していただいた方の多くが、参加後に意識が変わっており、きっとそれが救急の現場で生かされていたものと推察します。

セミナーの満足度

質問 「セミナーの内容は明日からの診療・救護に役立つ内容でしたか? 5段階中、どの程度でしょうか?
☐とても役立つ ☐役立つ ☐どちらでもない ☐あまり役立たない ☐まったく役に立たない

セミナー満足度円グラフ

解説:総評として、とても高い満足度がえられました。

救急搬送の適性度

質問 「現状として、脳卒中疑い患者の搬送先選定はどの程度適切にできていると思いますか?」
☐100% ☐75% ☐50% ☐25% ☐0% ☐わからない

救急搬送の敵制度グラフ

解説:適正度の加重平均は、全体で71%でした。かなり高い率です。
「わからない」と回答した人の多くは、病院職員のうち、救急隊との直接の接触のない職種の方が「判断不能」とされたためと推察します。

搬送基準の見直し・改訂

質問 「香川県の脳卒中疑い患者の搬送基準の見直し、改訂は必要だと思いますか?」
☐思う ☐思わない ☐わからない

搬送基準の見直し・改正グラフ

解説:セミナーの中で、脳卒中医療の最近の進歩についてお話ししました。特に脳卒中の4分の3を占める脳梗塞においては、血栓溶解療法だけでなく、血栓回収療法という新しい治療法が普及しつつあります。今回のセミナーの目的のひとつはその情報のアップデートでしたが、搬送基準もアップデートが必要な時期がきていると思われます。

搬送基準の明確化

質問 「香川県の脳卒中疑い患者の搬送基準に、どこで何ができるかを具体的に明示したほうが、病院前救護の現場と患者のためになると思いますか?」
☐思う ☐思わない ☐わからない

搬送基準の明確化グラフ

解説:脳神経外科の医療の中には、経過観察だけでよいものから、開頭術や血管内治療など高度なものまであります。脳外科があればどこの病院でもすべての治療が提供できるわけではありません。それぞれの病院には役割があります。

特に、高度な医療が迅速に提供できる病院は限られています。時間との勝負である脳卒中医療では、最初から適切な病院に搬送することが、予後に大きく影響してきますので、病院選定は非常に重要です。

セミナーの中で紹介しましたが、香川県は現在のところ、「搬送基準」の中で血栓溶解剤t-PAの静脈注射ができる病院の表記までしか対応できていません。一方で、たとえば宮城県では、下の図のように脳神経外科手術のできる病院、対応できる時間を詳細に示した搬送基準で運用しています。 血栓回収療法ができる病院が増えてきている今、この新しい治療法を含め、高度医療ができる病院を明示することが、病院選定を行う現場のためになり、ひいては県民のためになると考えられます。

救急搬送実施基準

血栓回収療法の適応患者の弁別方法

質問 「救急隊が用いる主幹動脈閉塞の弁別のためのスクリーニング法はどれがよいと思いますか?」
☐ELVO ☐FACE2-AD ☐FAST-ED ☐RACE ☐JUST7 ☐わからない ☐その他

血栓回収療法の適応患者の弁別方法グラフ

解説:セミナーの中で、病院前救護で今すぐできる最新医療への接続方法のひとつとして、血栓回収療法の恩恵を受ける脳卒中患者の見分け方について解説しました。脳の主幹動脈閉塞患者のスクリーニング方法として、様々なスケールを紹介しましたが、なかでもELVOは簡便で覚えやすく短時間で施行可能であり、今すぐに誰でも導入できる方法としてお勧めしました。スクリーニングには様々な方法があり、どれがベストなのかはまだ結論がでていませんが、とにかく、今すぐに救える患者を増やすために、できることからやっていくことが私たちの使命だと考えています。

ELVOスクリーング

セミナーの有益だったポイント

質問 「今日のセミナーで、有益だったこと、印象に残ったことは、なんでしょうか?」

解説:ELVOほかスクリーニング方法の解説と答えた方が最多でした(18人)。ドクヘリの有用性を認識できたとの声もありました(9人)。また、救急隊員、病院職員の双方から、お互いの活動状況の実態を知ることができてよかったとの声も多数ありました。

自由意見

質問 「感想、意見、要望など、なんでもお聞かせください」

解説:非常にたくさんのご意見をいただき、ここに紹介しきれませんが、いくつかを紹介したいと思います。なかでも、搬送基準のみなおしを要望する声が多くみられました(10人)。
また、このような機会を通しての救急隊と病院の連携の重要さ、本セミナーの再開催の要望などのご意見もたくさんいただきました。

  • こういった意見交換できる場が多くなると、香川県の救急医療の底上げになると思います(看護師)。
  • 大変、勉強になりました。救急隊はなかなか医師と病院や搬送後、傷病者の様子を話すことがなく、活動がよかったのかどうかもわかりません。傷病者の経過を追跡できるようになると振り返って勉強になります(消防隊員)。
  • 今後の活動に生かせるセミナーだったと思います。病院のできる処置がもっとクリアになると、より活動がよくなると思いました(消防隊員)。
  • アンケート結果により今後スケールや搬送の実施基準など見直しがかかるとすごい効果のあるセミナーになると思います(消防隊員)。
  • 搬送基準の見直しを検討する事が重要ではないかと思いました(消防隊員)。
  • 定期的な本会の開催を希望します(消防隊員)。

ウェブでいただいた質問への回答

セミナー開催中、ウェブでも多くのご質問をいただきましたが、すべての質問のお答えすることができませんでした。ここで、質問に対する回答を準備しましたので公開します。

ウェブでいただいた質問への回答扉

【質問】SAHを疑った場合に急性期では項部硬直は症状としては出にくいということと、刺激になり悪化させる可能性がある、ということで救急現場では観察しないということで一定のコンセンサスがあります。同じく、髄膜刺激症状のケルニッヒ徴候、ブルジンスキー徴候を観察することは、患者に刺激になると思われますがいかがでしょうか?
【回答】ご指摘の通り、くも膜下出血では刺激が再破裂を誘発する可能性があります。無理に髄膜刺激症状を確認するとそのような事態を招きかねないと思います。症状確認のためだけに再破裂を来しては全く意味がありません。くも膜下出血の症状の一つとして確認される徴候であり、参考程度に留めておく方が現場では無難かと思います。

【質問】脳卒中でドクヘリで対応した場合、ランデブーポイントで接触してどのような治療が行われますか?高血圧に対する降圧剤投与とかが行われるようになりますか?
【回答】突然発症の頭痛など、くも膜下出血を疑う場合は、再破裂を予防するために積極的に降圧(収縮期血圧120程度まで)を行います。瞳孔不同などの脳ヘルニア兆候がみられて脳出血が疑われる場合は、血圧が高いと出血がさらに拡大する可能性があるため、早急な降圧が必要です。一方、脳梗塞であれば、患者の身体は、虚血巣に対して少しでも血流を増やそうとして血圧が上がっています。この場合、降圧はむしろ虚血を助長する可能性がありますので、著しい高血圧の場合を除き積極的な降圧はしません。ただし、ほとんどの場合、脳梗塞と脳出血を判別することは困難です。そこで、異常高血圧(収縮期血圧200以上)であれば、脳梗塞、脳出血のいずれであっても出血のリスクを下げるために降圧を行います。また、脳卒中様の症状を呈する脳卒中ミミック(低血糖やてんかん発作など)との判別が難しいこともありますので、血糖値の測定や麻痺の程度、意識状態などを確認して判断します。

ドクターヘリ

【質問】脳卒中事案でドクターヘリがランデブーポイントに先に到着した場合、救急隊と途中ドッキングをすることにより薬剤投与などをされる場合ありますでしょうか?
【回答】上記と同様です。
【質問】ドクターヘリの運行時間外で中央病院や香川大学への搬送に長時間(40分以上)かかる場合は、直近のt-PA施行可能施設へ一旦収容するべきでしょうか?
【回答】セミナーの中でもお話ししましたが、脳梗塞の中でも主幹動脈閉塞とラクナ梗塞とではt-PAの効果は異なります。重症化しやすい主幹動脈閉塞に対してはt-PAは効果が低いと言われています。この場合は血栓回収術の適応となります。実際のところt-PA施行施設から血栓回収術のできる施設への転院搬送にはかなり時間がかかってしまう場合が多いようです。従いまして、現場で主幹動脈閉塞が疑われる場合(ELVO陽性)は、遠くても血栓回収可能な病院へ直接搬送することをお勧めします。
【質問】現場からのドクヘリ要請となると市内からの要請ではヘリでは傷病者接触までに早い、けれども病院までは救急車での病院到着の方が早い場合が考えられますが、そういった場合でも要請すべきでしょうか。また、指令段階で要請するほうがよろしいのか、ご回答よろしくお願い致します。
【回答】覚知の段階で明らかに急性期の脳卒中が疑われる場合はただちにドクヘリを要請いただいて結構です(覚知要請)。たとえ高松市内からの要請であっても早急な対応ができるようになるでしょう。一方、現場要請の場合は、状況によっては救急車の方が病院到着が早い場合もあり得ますので、どちらの搬送にするかは現場救急隊の判断にお任せします。現場で搬送先選定中に、近くに血栓回収可能な病院があったけど断られて遠方病院への搬送になった、というような場合などはすぐさまヘリ要請していただいて結構です。
【質問】FACE2ADでの評価は有効でしょうか?
【回答】現在香川県では、脳卒中の疑い患者の抽出のためのスコアとしてCPSSを用いています。さらにその中から主幹動脈閉塞の患者を弁別するためには、セミナーで紹介したELVOのほか、FACE2ADなどどのスコアリングを使用していただいてもかまいません。全隊員が同じように使用できれば問題ないと思います。ただ、パネリストの隊員の方も言われていたように、簡便であること、迅速にできること、誰でもできることなどが重要です。今回のセミナーで提示したELVOはその点においても非常に優れています。一方、FACE2ADも良い指標ではありますが、検討項目がやや多いこと、点数をつけていかないといけないことなどやや煩雑です。なお、F(Face)とA(Arm)はすでにCPSSに含まれていますので重複です。C(Consciousness:意識レベル)も常に評価されています。また、A(心房細動)は、たとえ心原性脳塞栓症の患者でも、発作性(一過性)のため接触時には認めないことがしばしばありますので、あまりあてにならないことはよく知られています。


【質問】脳卒中について、特に脳梗塞について、香川県の搬送実施基準の見直し、または追記を加える必要はありませんか?
【回答】総合討論でも取り上げましたが、ご指摘のとおり、重要な問題だと思います。治療法の発展にあわせて、病院前も含めて医療体制全体の「アップデート」が必要だと思います。現在の香川県の搬送基準はt-PA投与に対応したところまでで止まっています。病院側の血栓回収療法の普及に病院前もあわせる必要があると考えています。脳卒中学会は、病院側のクラス分類を行うことでどこに搬送すべきかを示そうとしていますが、次は各県のメディカルコントロールにおいて搬送基準で明確にすべきだと思います。

【質問】家族の無理解による回答や同じ質問でも医師に対しては回答するが救急隊員に対しては回答してくれないこともあるので病院連絡時と病院到着後の主訴が異なり病院選定に苦慮することがあります。
【回答】体調の急な変調により、患者も家族もあわてふためき、現場では正確な情報を聴取できないこともしばしばあるでしょう。脳卒中疑いの患者の場合、訓練された救急隊員の診察が、病院前救護およびその後の治療にとって重要となります。発症時間など家族への問診も大切ですが、まずCPSS等による身体所見のスクリーニングで判断してください。今回のようなセミナーを通して救急隊員と病院スタッフとの信頼関係が築かれていますので、自信を持って脳卒中センターを選定し搬送していただいてよいと思います。


【質問】脳卒中様症状がでる疾患として大動脈解離がありますが、現場観察で注意していることはありますか?
【回答】非常に重要な質問だと思います。実際に大動脈解離に脳虚血を合併している症例は稀ならず遭遇します。また、脳虚血に対してt-PA投与や血栓回収療法を行う上で、必ず除外をしないといけない疾患です。t-PA投与では禁忌項目になりますし、血栓回収療法では、解離している血管に対してカテーテルを通すのは非常に危険です。大動脈解離に伴う脳卒中の特徴としては、麻痺や構音障害など脳卒中を疑う症状があるにもかかわらず血圧が低いことです。また、血圧の左右差がある場合もありますので、両側の血圧測定は必ず行います。また症状が出る前に胸痛や背部痛がなかったかも質問します。冠動脈への影響ある場合は心電図上ST変化が現れることもあります。このような症状がなければ、我々でも画像を撮影しない限り判別不能です。

せとのあかり

まとめと展望 アンケート結果から見えてきたこと

今回のセミナーとアンケートを通して、救急隊員の皆様の努力によって多くの患者さんが適正な搬送で適切な病院にたどりつき、最良の医療が受けられていることがわかりました。ただし、医療は日進月歩であり、よりよい結果を得るためには常に情報をアップデートしていくことが重要であることもわかりました。また、病院の医療体制のみならず、病院前救護体制と協力関係をより密接にしていくことが大切であることも再認識できました。
「脳卒中循環器病対策基本法」の施行により、香川県でも様々な施策がなされていますが、まだまだ改善していくべき課題が残されています。
本セミナーに参加された皆様が中心となって、香川県民のために今すぐできることをやっていくことがいかに大事であるかを実感できました。これを更に大きな輪として広めることができたらと切に願います。
来年、またお会いしましょう。

出前セミナーいたします

このたび、救急セミナーに参加できなかった消防隊員の方のために、消防本部の単位でセミナーを出前します。ご希望の方は下記アドレスまでメールください。

申し込みアドレス: nougeka@chp-kagawa.jp