虚血性心疾患
心臓に酸素や栄養を送る冠動脈の狭窄や閉塞に対して循環器内科でのカテーテル治療がむずかしいあるいは適さない、と判断された症例に対する冠動脈バイパスを行います。バイパスに使用する血管は胸の中にある内胸動脈や下肢の表面の大伏在静脈を使用する場合がが多く、他には腕や胃の動脈を使うこともあります。
冠動脈主幹部病変など重症例の冠動脈バイパス術や、心筋梗塞に時に合併する病態(心室破裂、中隔穿孔、乳頭筋断裂)に対しては、救命のために緊急手術が必要となります。
心拍動下冠動脈バイパス術(人工心肺を使用しない)
冠動脈バイパス術は心臓の表面にある直径2mm前後の細い血管をつなぐ手術であり、かつては人工心肺を使用しながら心臓を停止させて手術を行っていました。
最近では人工心肺を使用しないで心臓が拍動したまま血管をつなぐ手術が多く行われるようになってきています。手術の併発症である術中の脳梗塞を起こす可能性が低いなど、患者さんの肉体的負担が少ない手術であり、術後の回復が早いことが特徴ですが、技術的にはより難しいといわれています。
人工心肺を使う方法と使わない方法、それぞれの方法に長所・短所があり、当科では患者さんごとに最適と思われる方法で行うようにしています。
弁膜症
弁が変性して逆流したり狭くなったりする病気で、進行すると心不全(息が苦しくなる)が起こってきます。ある程度薬でコントロールはできますが、変性は徐々に進行する場合が多く、心筋も次第に傷んでくるため、手術が必要となる場合があります。弁膜症の手術は弁の部位や病変の状態により自己弁を利用できる場合と人工弁になる場合があります。
牛などから作られた生体弁は、将来変性してきますが、近年では耐久性が15年あるいはそれ以上あることがわかってきており、ガイドラインでは65才以上では生体弁が推奨されています。機械弁はカーボン製の抗凝固剤(ワーファリン)が必要になりますが、耐久性は優れており若年の方に適応となります。年齢にかかわらず、患者さまの生活スタイルや人生設計により弁の種類は選択することが可能です。大動脈弁以外の心室の入り口にある弁(左側の僧帽弁、右側の三尖弁)はほとんどの場合自己弁を残すことが可能です。
人工弁の種類
自己心膜による大動脈弁形成術
当院では2021年より自己心膜による大動脈弁置換術を始めました。この方法は東邦大学大橋病院、尾崎重之先生により開発された、自己心膜をグルタルアルデヒド溶液で化学的に処理し、自己の弁輪の形状とサイズに合わせて切り取ったものを3枚用意し、変性した自己弁を切り取ったあとに縫い付けて、大動脈弁を再生する方法です。
メリットは抗血栓剤が半年で不要となること、人工弁の縫着輪のような硬いものが入らないため、血行動態が良好であること、人工物がないため感染症を受けにくいなどがあります。開始されてから約15年経過しており再手術回避率は95%と良好な成績が報告されています。
小切開心臓手術 (MICS:Minimally Invasive Cardiac Surgery)
可能な場合は患者さんに負担の少ない小切開心臓手術(小開胸手術または胸骨部分切開)を行っています。メリットは入院期間が短縮できること、出血量が少なくてすむこと、社会復帰が早いこと、力を要する動作/仕事が早く開始できるなどです。対象疾患は僧帽弁手術、大動脈弁手術、三尖弁手術、心房細動に対するメイズ手術、心臓腫瘍、心房中隔欠損症、心房細動に対する左心耳閉鎖(胸腔鏡下)などです。個々の患者さんの胸郭の形や大動脈の位置、肺疾患の合併により小開胸は難しい場合もあり、より適したアプローチで安全に行うことを優先しています。
胸部・腹部大動脈瘤
大動脈瘤は通常症状はありませんが、ある一定の大きさになると破裂する危険があり、生命に直結する怖い病気です。時期を逸せずに予防的に治療すれば、比較的安全に治療が可能です。
おおよその治療の目安は胸部で5.5 cm、腹部で5.0cmですが、形や拡大速度により早めに治療した方が安全な場合があります。
瘤およびその周囲の血管の状態によって足の付け根からステントグラフト治療が可能な場合も多く、傷が小さく低侵襲で、患者さんにやさしい方法です。
胸部の場合は頸部の血管のバイパスを併用する場合がありますが、人工心肺を使用せずにできるメリットが大です。場所や形態により全例がステントグラフトで治療できるわけではありませんが、瘤の大きさが大きくなりすぎると、破裂の危険もさることながらステントグラフトが困難となる場合が多いため、指摘されれば早めに受診をお勧めします。
※当院では下記写真のごとく、腹部では足の付け根を切開することなく、止血デバイスを用いて穿刺のみで行っています。
急性大動脈解離に対する治療
大動脈解離は、大動脈の内面の壁が急にはがれることによってさまざまな障害を起こす非常に重篤な緊急性の高い病気で、心臓に近い大動脈に及んだ場合は心臓周囲に出血して圧迫による心停止となる危険性があるため緊急手術を必要とします。安定した成績で緊急手術を行っています。それ以外の大動脈解離では多くの場合、手術は必要なく、血圧を調整して管理致します。
不整脈関連手術
心房細動や心房粗動が弁膜症に合併することがしばしばあります。
その場合、同時に冷凍凝固あるいは電気焼却でブロックラインを作成する(一般にメイズ手術と言われています)ことにより弁膜症手術と同時に行うことが可能です。MICS心臓手術でも可能です。また不整脈が原因となって脳梗塞などの原因となる血栓ができやすい左心耳を閉鎖あるいは切除を同時に行います。
胸腔鏡下左心耳閉鎖(ウルフ・オオツカ法)
心房細動では心原性血栓塞栓症(脳梗塞など)を起こすリスクがあり、不整脈治療や抗凝固療法が必要です。それに対し血栓の好発部位である左心耳を処理すると、抗凝固薬を内服しなくても血栓症や塞栓症になりにくくなると報告されています(Heart Rhythm. 2018;15:1314-1320)(Interactive CardioVascular and Thoracic Surgery. 2022; 34: 548–555)。 胸腔鏡下左心耳閉鎖は小さな創数カ所から内視鏡を用いて、左心耳を直接外から確実に閉鎖する方法で、低侵襲で塞栓症の予防効果が得られることが特徴です。手術に人工心肺は不要で、手術時間は1時間程度、入院期間は通常4-5日です。
下記のようなことでお困りではありませんか?
①出血性合併症で抗凝固薬の継続が難しい。
②抗凝固薬を内服しているが脳梗塞を発症した。
③お仕事等で忙しく、抗凝固薬の定期的な内服やそのための通院が難しい。
④抗凝固剤を飲み忘れてしまう。
このような患者さんにはメリットが非常に大きい治療です。 ご相談頂きましたら、待機中の脳梗塞や出血性合併症の不安を軽減するため、できるだけ早急に治療を受けて頂けるよう手配させて頂きます。
末梢血管手術
閉塞性動脈硬化症などの末梢血管の手術を行っています。
閉塞性動脈硬化症は、下肢に行く動脈がつまったり狭くなったために、歩行するとふくらはぎなどが痛くなるなどの症状が出ます。少し休むとまた歩けるようになりますが、同じような距離を歩くとまた痛くなるというのが特徴的です。つまった部分や狭くなった部分を自家静脈や人工血管でバイパスする手術を行います。
急に血栓が生じたり、心臓などから塞栓が発生して四肢の動脈閉塞を起こすことがあります。一定時間以内に血栓塞栓除去を行う必要があり、緊急手術で対応致します。
また透析患者さんに必要なシャント手術を多数行っており、カテーテル治療が困難なトラブルケースにも対応しています。
その他の手術
心臓腫瘍、心臓内および肺動脈血栓症、外傷性疾患、一部の先天性心疾患などに対する手術を行います。