多発性硬化症・視神経脊髄炎について
多発性硬化症
多発性硬化症(Multiple sclerosis: MS)は、自己免疫のメカニズムによって中枢神経系を構成する髄鞘蛋白やオリゴデンドロサイトに炎症を引き起こす疾患です。病変が「多発」し、経過から見ても症状が「多発」していることが特徴です。20-40歳の若年成人を中心に発症し、女性に多いことが知られています。日本国内では10万人あたり14.3人の割合で患者さんが存在し、後述する視神経脊髄炎とともに香川県内にも約200人の患者さんがいます。
特異的な抗体はありませんが、特徴的な症状の出方、髄液検査・画像検査の所見をもとに診断します。
視神経脊髄炎スペクトラム障害
視神経脊髄炎スペクトラム障害(Neuromyelitis optica spectrum disorders: NMOSD)は視神経と脊髄炎を中心とする中枢神経系の自己免疫性疾患です。NMOSDもMSと同じく40代を中心とした若年で多く発症し、女性に多いことが知られています。日本国内では10万人あたり3.4人の割合で患者さんが存在します。
NMO-IgG(AQP4抗体)という特異的な抗体が関与しており、抗体の陽性と症状をあわせて診断します。
症状
いずれの疾患も、ひろく中枢神経(脳、視神経、脊髄)に病変を生じることから、視力障害、手足の運動・感覚障害、歩行障害が生じえます。
多発性硬化症はウートフ現象(入浴や夏場など、体温上昇に伴い症状が悪化する)が特徴的です。症状は繰り返し再発し、自然に改善することもありますが次第に悪化していく傾向にあります。最終的に、再発しなくてもだんだんと症状が悪化してしまう「二次性進行形MS」という状態に至るとされます。
視神経脊髄炎は失明に近い重度の視神経炎と脊髄炎を特徴とします。また難治性のしゃっくりや吐き気などを生じることもあります。重症であることが多く、高度の視力低下や歩行障害などの後遺症を残すこともあります。
検査
問診、診察を行い、
血液検査・髄液検査(オリゴクローナルバンド、IgGインデックス)
頭部・脊髄MRI
眼科的検査(視神経炎、視力の評価)
上記検査を中心に、他疾患の除外を目的とした検査や神経の機能を評価する検査などを行います。
治療
①急性増悪期の治療
原則入院で以下の治療を行います。
・ステロイドパルス治療 点滴でステロイドという薬を注射します 3日間連続で行うことが
一般的です。不眠や血糖値上昇を生じる可能性があります。
・血漿浄化療法 血液から、症状の原因になっている物質が含まれることの多い血漿をとりだす
治療法です。血圧低下や、アレルギー反応を生じる可能性があります。
・IVIg 免疫グロブリンという血液に含まれる成分を注射します(輸血製剤です)。
5日間連続で行うことが多く、血圧の変動や頭痛、血栓症を生じる可能性があります。
できるだけ症状が改善するよう、これらの治療を必要に応じて組み合わせます。
この急性増悪期の治療内容はMS・NMOSDに共通しています。
②再発予防目的の治療
多発性硬化症
ステロイドは再発予防効果がないことがわかっており、疾患修飾薬(disease modifying drug: DMD)といわれる治療薬を使い再発を予防します。DMDとして本邦で使える薬剤はインターフェロン、グラチラマー酢酸塩、フィンゴリモド、フマル酸ジメチル、ナタリズマブ、オファツムマブ、シポニモド、があります(2023年12月時点)。再発を繰り返すことによる神経機能の低下や脳萎縮を防ぐため、 早期から効果の高い薬剤を選ぶことが主流になりつつあり、DMDのなかでも効果の高いオファツムマブ、ナタリズマブを中心に治療を行うことが増えています。またオファツムマブとシポニモドは二次性進行形MSに対する効果も認められています。
視神経脊髄炎
ステロイド、免疫抑制剤内服による再発予防効果が示されています。しかし、NMOSDは症状が後遺症として残存することも多く、できるだけ再発をしないよう高い再発予防効果をもつ薬剤を選択することがすすめられます。本邦では、分子標的薬に分類されるエクリズマブ、ラブリズマブ、サトラリズマブ、イネビズマブ、リツキシマブが使用でき、早い段階から導入されることも増えています。
さいごに
多発性硬化症・視神経脊髄炎は再発を繰り返すことがあり、再発予防のための治療を適切に選択することが重要です。また、患者さんの中には就職・妊娠・出産などのライフイベントを控えているかたも多く、できるだけ再発しない治療、再発した場合も迅速に急性増悪期の治療を行うことが望ましいとされます。
当院は香川県高松市で三次救急病院として急性増悪期の治療、再発予防目的の治療導入にも対応可能な病院です。多発性硬化症・視神経脊髄炎をご心配されている患者さん、ご家族さんは一度受診をご検討ください。