最終更新日:2024/03/06

てんかんについて

 てんかんは、約100人に一人の割合で発症すると言われている、非常に頻度の高い病気です。ここでは、特に成人を診る脳神経内科の立場からてんかんについて解説したいと思います。

まずは「てんかん」の一般的な話からです。

てんかんの症状

 てんかんというと、ひきつけ・けいれんをイメージされる方も多いのですが、てんかんは脳が正常に働くための電気活動が突然乱れることで出現するため、異常な電気活動が起こる部位によって症状は様々です。一瞬ビクっとなり物を落とす、突然ボーっとして動作が停止する、などがてんかんの症状のこともあります。また、脳での異常信号が部分的な場合は、腹部不快感、吐き気、めまい、耳鳴、既視感(デジャヴ)、不安感、恐怖感だけのこともあり、てんかんの症状は多彩です。この様な症状が突然起こり、繰り返すようであれば、てんかんが鑑別に挙がります。

てんかんの診断・検査

 てんかんは、問診(発作時の状況・既往歴・家族歴など)や種々の検査から総合的に診断します。特に発作時の様子を確認することは診断にとても重要で、最近はスマートフォンで発作時の動画を撮影してもらい、診断に役立つことが増えています。検査で最も有用なのは脳波検査で、特に成人でてんかん放電を検出した場合は、診断的意義が高いと言われています。一方、成人てんかんは、1回の脳波だけでは約50%が正常となるため、脳波検査を繰り返し行うことで診断の精度が上がるとされています。成人、特に高齢者では、脳卒中や脳萎縮がてんかんの原因になることが多いため、CTやMRI検査で脳の形態異常がないかを確認することも重要です。その他、行える施設は限られますが、脳の血流や代謝などを評価し、脳の機能をみる画像検査や、24時間、数日間にわたり、ビデオと脳波を同時に記録する、長時間ビデオ脳波モニタリング検査などがあります。

てんかんの治療

 てんかんの治療は、大きく薬物治療と外科治療があります。薬物治療は、最近20年で新規抗てんかん薬が登場し、新しい作用機序の薬もでてきています。更に、新規抗てんかん薬は、他剤との飲み合わせに問題ないことが多く、以前の薬より副作用が少なく、妊娠中の患者さんに使用しても胎児への影響が少ないため、治療の幅が広がっています。どの薬を使うかは、患者さんの発作の型や背景疾患など、その患者さんの状況に応じて選択します。薬物治療を行っても、てんかん発作が頻回に起こる患者さんの中に、外科治療が選択肢となる方がいます。外科治療には、原因となる病巣が判明している方などに対して、その原因の領域を切除する方法や、電気刺激装置を植え込み、特定の神経を間欠的に刺激することで症状緩和を目指す迷走神経刺激療法という治療があります。

てんかんと遺伝

  てんかんは遺伝性の病気と思われている方も多いように思います。実際は、親がてんかんの場合、その子供にてんかんが発症するのは、4~6%とされており、一般人口と比較し2~3倍は高いのですが、多くの場合は遺伝の関与は大きくありません。一部の疾患には、はっきりとした遺伝性を呈するものもありますが、その様な疾患を強く疑わない限りは、遺伝性については過度に気にしすぎないことをお伝えし、一般的なてんかん診療となることが多いです。

続いて、「てんかん」の話題の中で、特に成人と関連したものを紹介します。

高齢者とてんかん

  てんかんを起こしたことがない人でも、高齢になってからてんかんを発症する人が増えており、最近注目されています。てんかんは小児期に発症すると思われている方も多いのですが、70歳以上では、小児と同等かそれ以上に新たにてんかんを発症すると言われています。高齢発症てんかんが増えている要因として、歳を重ねるにつれて脳卒中(脳梗塞・脳出血・クモ膜下出血)で脳の一部が傷ついたり、アルツハイマー病などで脳が萎縮する人が増えるため、異常な電気信号が出やすくなることが挙げられています。我が国では、高齢化社会がますます進んでいくため、高齢発症てんかんが増えていくと予想されています。高齢発症てんかんは、治療反応性が良好のことが多いと言われており、正しく診断し治療を行うことが重要です。また、高齢者は、他の薬を飲んでいることも多く、抗てんかん薬は飲み合わせが問題となることが多いため注意が必要です。前述の新規抗てんかん薬は、相互作用が少なく、他の疾患に対する薬をたくさん飲んでいる方にも使用しやすいという利点があります。

認知症とてんかん

  高齢者のてんかんは、痙攣が目立たず、意識レベルが低下するだけのことも多いため、認知症と間違われていることがあります。認知症と考えられている方でも、状態の良い時と悪い時がはっきりしている場合は、てんかんが原因となっていることがあり、てんかん治療により改善する可能性があるため、疑うことが重要です。また最近は、認知症とてんかんは相互に関係していると言われており、アルツハイマー病がてんかんの原因になったり、てんかんが認知症を加速させる要因になっている可能性が指摘されています。抗てんかん薬の中には、認知症の改善効果が期待されているものもあり、今後の研究が注目されています。症全体やアルツハイマー型認知症の詳しい情報は、こちら(認知症についてアルツハイマー型認知症について)をご覧ください。

女性とてんかん

  女性特有の現象とてんかんの関係について説明します。女性ホルモンは脳にも作用し、月経に関連しててんかん発作が約2倍に増悪すると言われています。また、妊娠・出産にあたっては、抗てんかん薬の種類・量によって胎児奇形のリスクや出生児の認知機能低下に関わるとされており、葉酸を補充することでリスクを減少できるため、妊娠の可能性がある女性てんかん患者さんは葉酸補充が推奨されています。抗てんかん薬によっては、妊娠中に血中濃度が低下し発作頻度が上昇することがあるため、血中濃度の定期的な測定や、抗てんかん薬の増量を検討することもあります。抗てんかん薬を内服していても母乳栄養は可能ですが、抗てんかん薬によっては児に残りやすいものもあるため、母乳を飲み始めてから、児の元気がない、一日中寝ているようなことがあれば、母乳を控えるなどの対応が必要になることがあります。抗てんかん薬によっては、経口避妊薬の濃度を低下させ、効果が減弱することがあるため注意が必要です。計画的な妊娠・出産を行うことで、母子ともにリスクを減らすことができるため、担当の先生とよく相談していただけたらと思います。

その他、特定の疾患とてんかん

  ・脳卒中後てんかん:脳卒中とは、大きく分けるとクモ膜下出血、脳内出血、脳梗塞で、脳卒中が、てんかんのリスクになることが分かっています。脳卒中後、1回てんかん発作が起きたら、60%以上の患者さんが発作を繰り返すと言われており、また、発作が再発すると、生活の質が更に低下すると言われています。脳卒中後てんかんも治療に対する反応は良好のことが多いとされており、適応がある患者さんには、遅滞なく治療を開始することが重要です。

  ・自己免疫性てんかん:異常な免疫の働きが起こることで自分の脳を攻撃してしまい、てんかんを引き起こす、自己免疫性てんかんが最近注目されています。近年の検査技術の向上により、原因となる種々の抗体が特定されるようになり、診断に至ることが増えています。てんかん発作の前に、先行感染(数日から数週前の風邪症状や下痢)や、著明な精神症状(行動異常、思考滅裂、興奮状態、幻聴など)があった場合は、注意が必要です。自己免疫性てんかんは、専門的な精査や免疫治療が必要となることが多く、疑われた場合は速やかに脳神経内科など、専門科を受診する必要があります。

  ・結節性硬化症:脳、皮膚、腎、肺、骨などの全身の様々な臓器に過誤腫と言われる良性の腫瘍ができる遺伝性疾患です。てんかんを合併することが多く、複数の抗てんかん薬を使用してもてんかんのコントロールが難しい、難治性てんかんの割合も多い疾患です。近年、mTOR(エムトール)阻害薬の一つであるエベロリムスが適応拡大で使用できるようになり、治療の選択肢が増えています。当院では、結節性硬化症診療連携チームを立ち上げ、診療を行っています。連携チームや結節性硬化症のてんかんについての詳しい情報は、結節性硬化症診療連携チームのページをご覧ください。

てんかん」は、発作が起こらなければ症状なく過ごすことができる疾患です。てんかん患者さんの7割は、正しく治療された場合、発作を完全に抑制できると言われています。理想的には発作や副作用なく、安心して過ごすことを目指したてんかん診療をご提供できればと考えています。