最終更新日:2023/04/17

胃がん治療

我が国の胃がん治療は、世界をリードしてきた領域のひとつです。その理由として、欧米と比較し、疾患頻度が高いこと、検診の普及が進んでいること、そして何より他の分野に先駆けて日本胃癌学会から胃癌治療ガイドラインが出版され、エビデンスを基に治療の発展と標準化に貢献してきたことが上げられます。

当院の胃がん治療は、早期癌に対しての機能温存手術(内視鏡手術含む)、高度進行癌に対しての薬物療法と手術療法を組み合わせた集学的治療まで、各症例に最も適した治療を提供できるように心がけております。当院の年間胃がん手術症例数は、消化器内科で行う内視鏡的切除手術を含めると日本全国でもトップクラスの症例数となっております。 現在、他院で治療中や治療予定の患者さんで治療方針に対する相談や疑問がある場合は、いつでも当科のセカンドオピニオンでの受診をしていただければと思います。

過去5年間、胃腫瘍手術件数, ()内:鏡視下(ロボット/腹腔鏡) 手術

  幽門側胃切除 噴門側胃切除
*食道切除含む
胃全摘 その他 合計
2017年        59    (46)         7     (6)       13     (2)        10    (8)        89   (62)
2018年        62    (49)         7     (7)       20     (7)          2    (1)        91   (64)
2019年        73    (63)         7     (9)       20   (12)          6    (3)      108   (87)
2020        50    (43)         6     (6)      13      (4)          6    (5)        75   (58)
2021年        57    (50)       13   (13)      13    (10)          6    (3)        88   (76)

 

過去5年手術件数棒グラフ

標準治療の実践

 胃癌治療ガイドラインに基づいた標準治療(科学的根拠に基づいて第一に推奨される最善の治療)を実践しております。同時に、ガイドラインの中で臨床研究として位置付けられている治療法(評価が定まっていないが将来有望な治療法)についても積極的に導入しております。当科は数多くの臨床試験に参加しており、2017年からはJapan Clinical Oncology Group (JCOG)胃がんグループの参加施設に認定されました。積極的にエビデンス(科学的根拠)に基づいた最新の治療法を取り入れて診療することで、最新最善の治療をより早く患者さんに提供する環境が整っております

胃癌治療ガイドラインリンク
JCOG参加施設認定証

体への負担が少ない手術(低侵襲手術)の実践

 当科は、体への負担がより少ない優しい手術(低侵襲手術)を目指しており、2000年からは腹腔鏡手術、2018年からはロボット手術を導入しております。小さく目立たない傷はもちろんですが、術後疼痛も少ないことから早期回復を可能にします。また症例に応じて積極的に機能温存手術を取り入れており、食事摂取や体重維持など術後における生活の質(QOL)を向上させることを目指しております。全国的にも早い時期から低侵襲手術を導入しているため、技術的にも安定し大変良好な手術成績を収めております。

腹腔鏡下手術

完全腹腔鏡下手術 写真1
  • 腹腔鏡手術の長所として、図の如く傷が小さく目立たないため美容上に優れている点、傷の感染 が少ない点、術後の痛みが少なく早期回復が望める点、ハイビジョンカメラを使用しているため繊細な手術が可能で出血の少ない点などが挙げられます。術後は7日前後での退院が可能となります
完全腹腔鏡下手術 写真2

ロボット支援手術

  胃がんに対するロボット支援下手術は、2018年4月の診療報酬改定により、幽門側胃切除・胃全摘・噴門側胃切除の術式を条件付き(一定の腹腔鏡手術・ロボット手術の経験数や設備が整った病院)で保険適用となりました。

  当院は、2018年7月に香川県で初めて、胃がんに対するロボット支援(ダ・ヴィンチ手術)の認定施設となりました。ロボット手術が適していると考えられる患者さんに対しては、アプローチの選択肢として提示しております。

ロボット支援手術の特徴

  • 高性能3Dハイビジョンカメラ
  • (まるで手のように自由に動く)多関節機能鉗子
  • 手ぶれ補正機能 など
手術スタッフ 写真

  ロボット手術は腹腔鏡手術と開腹手術の良い点だけを併せ持った手術と言えます。3D画像のハイビジョンカメラと手ブレ補正機能を持つ多関節鉗子による、緻密で自由自在な操作が特徴です。手術には本来、術者と助手の「あうんの呼吸」が求められますが、ロボット手術では思い通りに術者自身が操作を行うことができるため、術者と助手の感覚のずれなく手術を進めることができます。この特徴により胃がん手術では膵液漏などの合併症を軽減すること、組織を愛護的に扱うことで胃がん症例に多いとされる播種再発を抑えられることなども期待されます。また術者格差の影響は開腹手術や腹腔鏡手術と比較し、より少なく、安定かつ確実な手術を行うことができると考えており、将来的にはより進行した症例に優位性を発揮するのではと感じております。現在ロボット手術優位性の検証について、当科も参加登録しているJCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)胃がんグループで「ロボット手術の腹腔鏡に対する優位性を検証する第3相臨床試験」が進行中であります。

ロボット支援手術を担当する医師について

  当院では、「胃がんに対するロボット支援下胃切除」について、以下を満たす医師が手術を行うこととしております。

  1. 消化器外科専門医であること
  2. 日本内視鏡外科学会が定める胃がん手術で取得した内視鏡手術技術認定医であること
  3. da Vinci Surgical System(ロボット製造元)の定めるトレーニングコースを受講し、Certification(認定)を受けた医師であること
資格者写真

高度進行胃がん治療

 高度進行胃がんに対する治療は、手術だけでは成績向上は望めないことが分かってきました。そのため、手術と薬物治療(抗癌剤や免疫治療薬)をうまく組み合わせた

  • 術前化学療法(手術前に抗がん剤で胃がんを縮小させてから行う手術)
  • コンバージョン手術(切除できない胃がんに対し抗がん剤治療をし、その後切除可能となった症例に対して行う拡大手術)

を積極的に行っております。上記治療法については、現在全国規模で検証中であり、当科は臨床試験(JCOG臨床試験)に参加することで、より最新の治療法を迅速に患者さんに提供できる体制を整えております。

また、手術が難しい症例もしくは再発症例についても細やかに治療を行っております。近年、新規抗がん剤といわれる胃がんに有効とされる化学療法剤や免疫治療薬、抗がん剤による副作用を軽減する新薬などが続々と登場してきております。それにより胃がん治療の成績は飛躍的に伸びてきております。以前では根治不能とされ、そのまま緩和ケアとなっていた症例が、薬物治療により手術が行える状態まで改善し、手術することでお元気になられた患者さんも近年非常に増えてきました。当院では腫瘍内科と密に連携をとることで胃がんの治療成績を常に向上させる努力をしております。

強いチーム医療(栄養・リハビリ等の積極的介入)

 胃がん治療を受けられる多くの患者様が不安に感じていることは、「どんな治療をするのか」、「手術後の栄養・食事管理をどうするべきか」、「胃を切った後の症状はどんなものか」、「術後は仕事に影響があるのか」、「再発した時はどうなるのか」といった様々な内容があります。こういった悩みに対し、医師以外に栄養管理士、薬剤師、がん専門看護師、口腔ケアチーム、理学療法士、緩和ケアチーム、ソーシャルワーカーなどチーム医療を実践しており、術前術後の患者さんやご家族の悩み・相談にも十分に対応できる体制を整えております。
 最近では、周術期の栄養やリハビリ管理の徹底が再発率や合併症率を抑えるともいわれております。特に高度進行がんにおいては、上記の如く術前術後の薬物治療を実施することが多く、治療を受けるための「体を整える」ことが非常に重要であると考えております。そのために、栄養、筋肉、そして骨に至るまで患者さんに合わせた細やかな管理を提供することに努めております。

強いチーム医療(栄養・リハビリ等の積極的介入) 画像1

 また個々の胃がん治療を行う医師においても、外科、内科というような診療科別ごとの縦割り診療ではなく、消化器外科医、腫瘍内科医、内視鏡医、リハビリ医、病理医、放射線医、麻酔医とが常に連携を取る横割り診療を実践しながら治療方針を決定しております。内視鏡治療 手術、薬物治療、緩和医療など患者さん各個人にとって最善の方法で胃がん治療を行える体制を整えております。
早期胃がん進行胃がん関わらず、当院消化器外科もしくは消化器内科外来に迷うことなく受診紹介していただければ、進行度に応じた対応をとる体制を整えておりますので安心して受診していただければと思います。

消化器内科・腫瘍内科とは、綿密に連携をとって治療方針を決定しております。現在では、 早期胃がん治療は消化器内科が行う内視鏡治療、消化器外科が行う腹腔鏡下手術が全国的にも主流となっております。 そのため、治療方針については消化器内科と消化器外科とが常に連携をとって治療法を決定することが大事となります。 また、疾患によっては、消化器内科(内視鏡医)と協力して手術を行う、 LECS (Laparoscopy and Endoscopy Cooperative Surgery)といわれる腹腔鏡・内視鏡合同手術も行っております。 当院では、消化器外科と消化器内科とが参加する消化器合同カンファレンスを頻回に行い患者個々の症例の治療法について検討しております。 そのため、早期胃がんに限らず進行胃がんについても消化器外科、 消化器内科迷うことなく受診もしくは紹介していただいても対応できる体制を整えております。

胃癌手術とは

胃がんに対する手術療法は、切除することで肉眼的(目で見える範囲内)にすべての癌を取り除くことができる症例に行っております。

胃がんの転移経路は、血行性転移(肝臓、肺、骨など)、腹膜転移、リンパ節転移と大きく3つに分類することができます(下図)。この中で、血行性転移と腹膜転移を認める症例では、基本的には切除不能胃がんとして薬物療法が中心の治療となります。一方、一定の範囲内のリンパ節転移については切除可能胃がんとして手術療法を中心とした治療となります。胃がん手術は、胃がん自体を切除すること(胃切除)、決められた範囲にある転移の可能性のあるリンパ節と周囲の脂肪組織を切除すること(リンパ節郭清)、切除した後に食事が摂取できるように消化管をつなぎ合わせること(再建術)で構成されております。以下に具体的な手術方法をお示しします。

幽門側胃切除術

胃がん手術の中で最も多い術式となります。胃の上部(噴門)を残す方法であり、胃の出口(幽門部)を含め約3分2を切除する方法となります。同時に決められた範囲の(転移している可能性のある)リンパ節を郭清します。

再建法については、残った胃の大きさや患者さんの体型に合わせて、ビルロートI法、ビルロートII法、ルーワイ法(図参照)を選択します。

噴門側胃切除術

食道胃接合部がん(食道と胃のつなぎ目にできるがん)に適応されることが多い術式となります。胃がんが胃の上部(噴門部)に及んでおり、幽門側の胃(残る胃)が約2分1以上残すことが可能な症例に適応となります。食道胃接合部がんは、ヘリコバクターピロリ除菌や食生活変化により近年増加傾向にあり、それに伴い本術式も非常に増えてきております。また症例によっては転移している可能性のあるリンパ節が腹部だけでなく胸部(胸の中)のリンパ節にも及ぶことがあり、胸部のリンパ節郭清が必要となることもあります。

再建法については、当科では基本的に食道胃吻合・観音開き再建 (Double-flap technique)を採用しております。噴門側胃切除における一番の問題点は、術後の難治性逆流性食道炎をはじめとした術後愁訴が多く認められる点があります。当科の行う食道胃吻合・観音開き再建は、精密な逆流防止を付加した術式であり、術後愁訴の面ついても全国と比較して大変良い成績で行えております。

噴門側胃切除 図解1
噴門側胃切除 再建写真

胃全摘術

胃がんが、胃上部から下部に及んでいる症例に適応される術式です。上記術式と比較し、術後の体重減少や食欲低下を認めやすいため、当科では極力胃を温存する方針としております。しかし、がんの進行に伴い、根治性を得るために胃全摘を行わなければいけない症例については、積極的に栄養・運動療法を併用し、体重維持や食欲増進を図っております。胃がんが脾臓の近傍に及んでいる症例については、リンパ節郭清のために脾臓を同時に切除することもありますが、当科では症例に応じて脾臓を残しながら行うリンパ節郭清(脾門部リンパ節郭清)を行うこともあります。

再建法については、ルーワイ法で行います。

胃局所切除術

リンパ節郭清を必要としない胃がんや粘膜下腫瘍(GISTなど)症例に適応となる術式です。内視鏡医が胃内腔から必要最小限度の切除範囲を決定し、消化器外科医が腹腔鏡下に病変局所のみを切除し縫合する方法でLECS (Laparoscopy and Endoscopy Cooperative Surgery)といわれる術式となります。究極の胃機能温存手術といえます。

胃局所切除術 図解1
胃局所切除術連携手術