キャリアラダー
少子・超高齢・多死社会を迎え、国が医療提供体制を大きく変化させている今、その変化に柔軟に対応するために、看護の質をより高めていくことは私たちの責務です。
高齢者の増加、働く人口の減少という人口構造の変化や、医療の進歩などによる疾病構造の変化は、 医療費の増大や財源の不足を招いているだけでなく、人々が老いとどう向き合い、病と共にどう生活していくか、 人生の最期をどこでどう迎えるかなど、多くの課題に直面しています。
これらの課題解決のために、国は地域包括ケアシステムを導入し、これまでの病院完結型の医療から、 地域完結型の医療へ、提供体制を転換させる政策を展開しています。 そして、日本看護協会は、この地域完結型医療を支える看護の質向上のために、 2016年に「看護師のクリニカルラダー(日本看護協会版)」を発表し、看護の核となる実践能力の内容を示しました。 これは、看護を必要とするあらゆる場で、求められる看護が実践できる能力を培う自己研鑽のためのツールで、 看護実践能力の全国共通の物差しとして開発されたものです。
このような中、香川県立病院は、2004年からクリニカルラダーを導入し、2014年に開発した分野別ラダーと併せて看護職員の自己研鑽のツールとして活用してきました。
しかし、前述したように、今般の看護を取り巻く社会環境の急速な変化に対応していくためには、 これまで培ってきた力に加えて、多職種と連携する力や、サービスの受け手となる方々の意思決定を支える力を強化する必要があります。
そこで、香川県立病院教育指針に基づき、日本看護協会の開発したクリニカルラダーを取り入れながら、 既存のラダーの内容を整理し直し、「香川県立病院キャリアラダー」を作成しました。 このキャリアラダーは自己のキャリアをデザインし、自己の責任でその目標達成に必要な能力の向上に取り組めるよう、 管理的能力開発の段階や、スペシャリスト育成などを含めて段階的にまとめたものです。
香川県立病院の看護師として、個々の看護師が果たすべき役割を理解し、社会のニーズに応えるべく、 各個人の能力や、ライフサイクルに応じてキャリアをデザインし、自己実現に向けて研鑽し続けるために、 分野別ラダーと併せて有効に活用してほしいと思います。
キャリアラダーとは
- 看護者の能力(看護の核となる実践能力、自己教育研究能力、組織的役割遂行能力、公務員倫理と地域貢献)を、ラダー(梯子)のように設定し、看護師の専門的な能力の発達や開発、看護実践能力に加えて、看護管理者やスペシャリスト、また、大学院等への進学などキャリアを段階的に発展させるシステムです。
- 看護スタッフと看護管理者がお互いに能力段階を確認しながら、自己研鑽や人材育成をすすめるための有用なツールです。
キャリアラダー各段階に求められる能力
段階 | 求められる能力 | 備考 |
---|---|---|
ラダ|Ⅰ | 1.基本的な看護手順に従い必要に応じ助言を得て看護を実践する 2.自己の課題を発見し、自主的な学習に取り組む ストレスと向き合い、助言を得て前向きに考える 自己の行動・出来事を振り返り、意味づける 3.所属部署で、割り当てられた簡単なルーティンの作業を担当する 看護チームでは、自己の役割を理解し、チームメンバーの一員として行動する 4.公務員としての自覚を持ち、指導を受けながら県民の立場に立って行動する |
夜勤を含めて病棟全般の看護業務を助言や指導を受けながら実践できる 採用後部署の特殊性及び一人ひとりの成長に合わせて、1年を目途に認定されることを目標とする 分野別ラダーⅠの認定を前提とする *ラダーⅠに認定される前段階の看護職員をビギナーと呼ぶ |
ラダ|Ⅱ | 1.標準的な看護計画に基づき自立して看護を実践する 2.自己の課題達成に向けて、学習活動を展開し、看護実践に取り組む ストレスがかかっても冷静に対応し、また実践を振り返り、意味づける 3.リーダーシップを学びながら、所属部署で実地指導者の役割や係のリーダーとしての役割を遂行する 看護チームでは、自立してメンバーシップを発揮する 4.公務員としての自覚を持ち、県民の立場に立って行動する |
各々の看護観に基づいて、事例レポートと事例検討報告書をそれぞれ1題まとめて報告する 分野別ラダーⅡの認定を前提とする |
ラダ|Ⅲ | 1.ケアの受け手に合う個別的な看護を実践する 2.長期展望に立ち、自己の学習活動に積極的に取り組むと共に、既存の研究成果を臨床で活用し、自らの実践に取り組む 常に冷静な議論や対応を行い、また実践を振り返り改善に繋げる 3.看護部内の委員会活動や所属部署での教育指導的役割を担い、チーム運営ではリーダーシップを発揮する 4.公務員としての自覚を持ち、県民の立場に立って行動するとともに他者への指導的役割を果たす |
求められる能力が備わっていることを看護師長との面談を通して両者で確認すること 分野別ラダーⅢの認定を前提とする 大学院等の進学を検討する場合はこのレベルの認定を受けておくことが望ましい |
ラダ|Ⅳ | 1.幅広い視野で予測的判断をもち看護を実践する 2.看護の専門性を高め、組織運営に活用するとともに、研究に取り組み、成果を発信する。困難な状況でも冷静な議論や対応を行い、また実践を多様な観点から振り返り改善に繋げる 3.看護部や病院から求められる役割を認識し、チーム医療を推進する 所属部署の目標達成に向けたマネジメント力を発揮する 4.公務員としての自覚を持ち、県民の立場に立って行動するとともに他者への指導的役割を果たす |
看護管理者や、スペシャリストにキャリアを発展させていく場合には、このレベルの認定を受けておくことが望ましい |
ラダ|Ⅴ | 1.より複雑な状況において、ケアの受け手にとっての最適な手段を選択しQOLを高めるための看護を実践する 2.看護の質を追求し、組織運営に活用するとともに、主となり研究に取り組み、成果を発信する。あらゆる場面でも冷静に働きかけ、また実践を多様な観点から振り返り、良い将来を創る行動に繋げる 3.看護部や病院から求められる役割を認識し、チーム医療の要として、創造的なマネジメント力を発揮する 4.公務員としての自覚を持ち、県民の立場に立って行動するとともに他者への指導的役割を果たす |
ラダーⅣの認定を受けた者は自主的にこのレベルの課題に取り組み、自己評価する |