カテーテルという細い管を用いて、不整脈の原因となる異常な回路や興奮を発生させている部位をアブレーション(焼灼)して消滅させる治療法です。
カテーテルアブレーション治療の利点
開胸手術のような大きな手術と異なり、傷口が小さいため、身体の負担が少ない。
不整脈の原因部位を同定して消滅させるため、成功すれば根本的な治療になる。
薬の定期的な服用や、頻回の外来通院が必要なくなる。
専用のカテーテルを、主に足の付け根にある太い血管(大腿静脈または大腿動脈)から入れ、カテーテルの先をレントゲンで透視しながら心臓まで進めていきます。カテーテルの先端を心臓の内壁に接触させると、心臓の興奮を調べることができます。これによってカテーテルが接している部分が、異常な部位であるかどうかがわかります。カテーテルの先から高周波電流を流すと、触れているわずかな領域の心臓組織だけが焼灼され、細胞が死滅します。1回の焼灼で、電流を流す時間は1分以内、焼灼範囲は5mm程度であり、必要のない部分まで焼灼してしまうことはありません。
ほとんどの場合、手術時間は2~3時間で終了しますが、難しい不整脈の場合は5~6時間かかることもあります。苦痛がないように、鎮痛剤や鎮静剤を状況に応じて使用します。
カテーテルアブレーション治療の対象となる不整脈
上室頻拍症
心室より上の部分が原因で起きる頻脈性不整脈です。
WPW症候群(房室回帰性頻拍)
正常の伝導路の他に、心室と心房とを結ぶ異常な伝導路(副伝導路)があるため、一度心室へ伝わった興奮が再び心房へ戻ってきます。2本の伝導路で回路を形成し、興奮が回り続けることで頻拍を生じます。病名はこの病気のしくみを発見した3人の名前の頭文字からつけられています。副伝導路に焼灼を行い治療します。
房室結節リエントリー性頻拍
正常伝導路である房室結節の中に伝導速度の異なる2つの経路が存在し、速い経路と遅い経路で回路を形成し、興奮が回り続けることで頻拍を生じます。遅い経路を焼灼して治療します。
心房頻拍
心房内に異常な興奮が発生する場所が存在するために生じる頻拍です。異常興奮が発生する部位を同定して焼灼することで治療します。
心房粗動
心房内を大きく旋回する異常な興奮によって生じる頻拍です。この回路を遮断するように回路の一部を線状に焼灼して治療します。
心房細動
心房内で無秩序な興奮が多発し、心房が痙攣した状態になる頻拍です。肺から左心房につながる肺静脈内の異常興奮が心房に伝わることを引き金になって生じることが解明され、異常興奮の伝導を遮断するように肺静脈の出口周囲を焼灼する肺静脈隔離術を行います。
心室頻拍症
心室が原因で起こる頻脈性不整脈です。
心室は心臓から全身へ血液を送り出す重要なポンプの働きをしています。
心室頻拍は、特発性と二次性に分けられます。
特発性心室頻拍
原因ははっきりしませんがポンプ機能に異常がないため、命に関わる危険性は低いです。アブレーションの根治性は高く、原因となっている異常な回路や興奮部位を同定して焼灼します。
二次性心室頻拍
心筋梗塞、心筋症などで障害を受けた心室に形成された異常な回路が原因で生じる不整脈です。もともと心室のポンプ機能が低下している事が多いため、命の危険性があります。異常な回路が多様のため、アブレーションには高度な技術と経験を必要とされます。アブレーション単独で抑える事は難しく、植込み型除細動器(ICD)を行います。アブレーションはICDの作動回数を減らす目的で行います。
カテーテルアブレーションの実際
入院期間は通常3泊4日です。治療の前日に入院、治療の翌々日に退院となります(月曜日治療の場合は、前の週の金曜日入院となります。)治療前には、除毛や入浴、必要な衣服や物品など、手術に準じて準備を行います。
治療前に主治医から説明(治療の必要性、内容、リスクなど)があります。説明を十分に理解した上で、異議がなければ同意書に署名して頂きます。その後、治療が始まります。
治療は医師、臨床工学技士、看護師からなるチームで行います。患者さんの苦痛がないように、鎮静剤の全身投与を行います。呼吸を安定化させるため、ラリンゲアルマスクを挿入して気道を確保し、人工呼吸器で補助します。ただし覚醒していないと診断がつかない不整脈もあり、その場合は診断がついてから鎮静剤を開始します。カテーテル挿入部を消毒した後、滅菌した布で身体全体を覆います。右首や両足のつけねの血管からカテーテルを4-5本挿入し、心臓内へ留置します。カテーテルからの電気刺激や薬剤投与によって、不整脈を誘発し、異常な電気を生じている部位や回路を同定します。治療用のカテーテルをその部位まで持っていき、高周波電流によってカテーテルの先の部分を摂氏50-60℃程度まで上げ、原因部位を焼灼します。治療が及ぶのはカテーテルの先端から半径3-5mm程度の小さな範囲です。治療終了までは、速い場合で2-3時間、複数か所治療が必要な場合や、心臓の構造によりカテーテル操作が困難で難しい場合には5-6時間かかることもあります。治療後15-30分間ほど誘発を行い、再発がないことを確認して終了します。
治療後は全てのカテーテルを血管から抜き、圧迫止血します。止血確認後、圧迫固定を行い病室に戻ります。術後3時間は足を曲げずに安静にする必要があります。3時間経過して再出血がなければ、ベット上での行動が自由になります。翌朝に点滴を抜き、ベットから離れて普段通りの歩行が可能になります。再出血がないかどうか、心電図の異常や他の合併症が認められないかどうかなどを頻回にチェックして問題なければ、翌々日に退院となります。
退院後の注意点について
アブレーションに成功すれば
根本的に不整脈の原因を取り除くことができるため、
治療後は健康な人と同様で、生活の制限はありません
ただし、いくつか注意すべきことはあります。不整脈によっては、安定するまで2-3か月毎の外来通院や、抗不整脈薬や抗凝固薬の内服の継続が必要な場合があります。不整脈が再発することもありますので、異常を感じた場合は病院に連絡して対応法を確認して下さい。自分で手首の動脈の拍動を調べる自己検脈も大切です。再発がなければ最終的に通院不要となります。生活習慣の乱れが再発の原因となる心房細動では、アブレーションが成功しても安心せず、健康的な生活習慣を心掛け、かかりつけでの治療を続けて下さい。