診療科・部門紹介

診療内容(消化器・一般外科)

下部消化管(小腸・大腸)

下部消化管疾患とは

下部消化管とは小腸および大腸をいいます。

小腸は口側2/5を空腸、肛門側3/5を回腸といい、大腸はその部位によって、虫垂、盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、直腸S状部、上部直腸、下部直腸、肛門管に分かれます。

小腸には悪性疾患が少なく、小腸穿孔、腸閉塞、クローン病などの良性疾患が主です。外傷などのために小腸が穿孔した場合には緊急手術となりますが、腸閉塞は多くの場合、点滴などの内科的治療で治りますので、手術となるのは内科的治療が無効の場合や、腸が壊死になりかけている場合などです。クローン病も内科的治療で治らない狭窄や瘻孔などを形成した場合に、手術となります。

大腸には悪性疾患が多く、そのほとんどが癌です。大腸癌の症状は、S状結腸癌や直腸癌では、排便時出血や下痢と便秘を繰り返したり便が細くなるなどの便通異常で気付くこともありますが、それ以外の部位の大腸癌はかなり進行してもほとんど症状は現れません。
したがって、好発年齢である50歳台以降や、身内に大腸癌になった方がいらっしゃる方は毎年検診(検便)を受けられることをお勧めします。また排便時出血があっても勝手に痔と思い込んで放置し、癌が進行してしまう場合が非常に多いので、注意が必要です。

良性疾患としては急性虫垂炎、内視鏡で切除できない大きなポリープ、S状結腸軸捻転(腸捻転)、大腸穿孔、潰瘍性大腸炎、クローン病などがあります。

大腸癌の治療方針

当院の大腸がんの手術症例はこのところ年間あたり150例くらいで推移しています。
そのうちロボット支援下手術、腹腔鏡下手術が約90%を占めます。当科では直腸がんに対してはロボット支援下手術を第一に、他部位の大腸がんでは腹腔鏡下手術を第一に考えます。
当科には大腸外科領域の内視鏡外科学会 技術認定医が3名おり、そのうち2名ないし1名が必ず手術に参加し手術のクオリティーを担保します。その3名のうち2名がロボット支援手術の術者としても認定されており、直腸がんに対してはロボット支援手術を第一に考えます。

当院の消化器・一般外科 大腸外科チームによる
  1.大腸がんに対する腹腔鏡下手術
  2.直腸がんに対するロボット支援手術
についてご紹介します。

1.大腸がんに対する腹腔鏡下手術について

腹腔鏡下大腸切除術はお腹に5ミリと1センチメートルの穴を合計5か所あけて手術を施行します。
腹腔鏡下手術は

  • 腸蠕動(腸の動き)の回復が早い
  • スコープの拡大視効果でより精緻な手術操作が可能
  • 術後の機械的腸閉塞のリスクがほとんどない

などの利点が挙げられます。
その方法についてですが、
 ・執刀医、助手2人の計3人の外科医で手術を行います。
 ・助手の一人は術者の手術操作を決まった型通りにサポートします。

他方の助手がまさに「術者の目」となってスコープを操作しモニターに術者の関心領域を映し出します。この役割をする者をスコープ助手と言います。
腹腔内に二酸化炭素ガスを送り込みながらお腹を膨らませた状態を保って手術操作を行うスペースを確保します(気腹)。そして、へその部分にあけた穴から腹腔鏡というカメラ(図1、2)を腹腔内に挿入しておなかの中の状況をモニター画面に映し出します。
図1図1

図2図2
その映像を確認しつつ、残る4か所の穴をあけて、そこを通して入れた鉗子という小さめのマジックハンドのような器械(図3)を用いて、術野を展開して手術操作を行います。
組織を凝固切離するための電気メスやエネルギーデバイス(図 4、5)を使って、血管などを凝固しつつ出血なく切離できる、とても便利な道具も使用して手術を進めます。
図3図3

図4図4

図5図5

まず、鉗子、電気メスなどを用いて大腸、腸管膜などを剥離します。
特に剥離操作で腹腔鏡を使用することによって得られる拡大視効果はとても有用です。肉眼よりも近接したところでピントのあった映像が得られるのです。その詳細に映し出される解剖学的構造物に対する認識を基に手術操作を行いますので、より精緻な剥離操作が可能です。

郭清(カクセイ)すべきリンパ節を含む腸管膜脂肪を切除する側に付ける位置で大腸の支配血管を処理します。この「郭清操作」に関しても拡大視効果はとても有用です。
さらに必要な剥離操作を追加して、切除すべき部位が「ぶらぶら」の状態になったところで、気腹を停止します。そして、へその切開創から腸をお腹の上に持ち上げて病変を含む標本を切除、摘出します。
続いて、切り離した腸をつなぐ(再建する)わけですが、大きく分けて2つの方法で行います。

当院の消化器・一般外科 大腸外科チームによる
 ①気腹を停止した状態のまま、お腹の上で腸をつなぎ合わせて腹腔内に戻す場合
 ②再度、気腹を行って腹腔鏡下に腸をつなぎ合わせる操作を行う場合
があります。
そして、切開した穴を縫合して手術を終了します。

腹腔鏡下手術を行っている当院の手術室の風景です。
図3

図3

以下に、腹腔鏡下大腸切除術を受けた患者さんのおなかをお示しします。 まず、腹腔鏡下S状結腸切除術を施行した患者さんの術後のおなかです。(図6)。 臍の部分を含めて5か所の5ミリメートルから1センチメートルの5か所の穴をあけて手術をします。
手術後、数年経過すると、傷がわかりにくくなっているのがわかります。
図6図6

下の写真の患者さんは2か所の病変に対して2か所の大腸切除術(右半結腸切除術と左結腸切除術)を施行しました。
病気が2か所ある場合にも、腹腔鏡下大腸切除術は施行可能です。 図7図7

過去に開腹手術の既往のある患者さんも腹腔鏡下大腸切除術を施行することが可能な場合が多いです。
下は過去に上腹部の手術既往があった患者さんに腹腔鏡下手術を施行したケースです。
図8図8

2.直腸がんに対するロボット支援手術について

外科医がロボットの支援を受けることにより、そのメリットを享受しつつ腹腔鏡下に手術を行うのがロボット支援手術です。新聞、インターネットのサイト、雑誌など様々なメディアに取り上げられています。テレビドラマに登場したことも記憶にあります。そのためロボット支援手術(以下、ロボット手術)は医療関係者でない方にも、かなり知られるようになった印象があります。

そんなロボット手術ですが、念のために申し上げますと、ロボット手術といっても手術室にヒト型ロボットを持ち込んで、ロボットのスイッチを押したらオートマチックに手術が始まって・・・終了。というようなものではもちろんありません。
ロボットは私たち外科医の、手術操作を感覚的な部分、外科医の「手術センス」と言ってよいでしょう。そのあたりも正確に体現するテクノロジーです。
ロボットは私たちが指令する手術操作を細かいところまで忠実に再現してくれます。これをマスター・スレーブシステムと言ったりします。マスターは私たち外科医、そしてスレーブはロボット。ロボットは私たち外科医の言うことをきいてくれる。というわけです。

そんなロボット手術をご紹介します

2018年度から、ロボット支援下直腸切除術、直腸切断術が保険収載されたことを契機に、私たち香川県立中央病院 大腸外科チームは、ロボット支援下での直腸がん手術を施行しています。
香川県立中央病院 大腸外科チームでは、直腸がんに対してロボット手術を導入するまで、従来の腹腔鏡下手術を施行してきました。正しくきれいな腹腔鏡手術で直腸がんを治すことを第一に考え、解剖を深く理解し、手術操作を組み立て、常により洗練された腹腔鏡手術を提供できるよう継続的に努力してきました。
(私たちが構築した腹腔鏡手術の理論を、学会・研究会などで知った外科医たちが、中国・四国地方はもとより近畿、北陸地方からも、見学に訪れるようになりました)

そういったベースが、香川県立中央病院 大腸外科チームにはあります。テクノロジーを活かすにも、その導入までに築いてきた手術理論、外科医としてのセンスが必須です。手術看護師、臨床工学技士など手術に携わるスタッフたちの協力も得て、スムーズにロボット手術を導入することができました。
手術支援ロボットは“ダヴィンチ サージカルシステム”と言います。米国のインテュイティブ・サージカル社が開発しダヴィンチ サージカルシステムが全世界の施設に設置されています。

ダヴィンチ サージカルシステム

このダヴィンチ サージカルシステムは
   ・サージョンコンソール(図10)、
   ・ペイシェントカート(図11)、
   ・ビジョンカート(図12)
から構成されます。

図10図10

図11図11

図12図12

おおまかに、簡単にご説明します。
サージョンコンソールに向かって配した外科医がビューワの術野映像を基に手・、指・腕・足を動かしてロボットに指令をだします。すると患者さんのそばに配置したペイシェントカートのロボットアーム多関節鉗子が、外科医の動きのとおりに動いて手術操作を遂行するのです。そして、ビジョンカートには、そのシステムを制御する中枢がある。といったシステムです。

もう少し詳しくご説明しますと、
手術操作を構成する術者の腕・手首・手指の動きは、サージョンコンソールのマスターコントローラー(図13-1~3)を通して、ロボットアームとアームに付けられた鉗子により正確に体現されます。この鉗子は多関節を有しており、ヒトの手首を手本に設計されたとのことです。しかも、その可動域は、ヒトの関節の可動域より大きくなっています。
そのおかげで切離ラインに対して、最適な角度からデバイスを容易にアプローチさせることができます。このアプローチする角度は、手術操作においてとても大事です。

図13-1図13-1


図13-2図13-2


図13-3図13-3


図13-4図13-4


図13-5図13-5

さらにはモーションスケーリング機能(マスターコントローラーと鉗子の動きの比率を設定できる機能)と、手振れ補正機能によりとても滑らかで精緻な手術操作を体現します。外科医としての感覚的な部分、外科医の手術センスを表現してくれる印象です。
また、サージョンコンソールに向かう術者の眼前に提供される術野は、ビューア(図14-1、2)に映る腹腔内の3D高解像度映像です。
図14-1図14-1

図14-2図14-2
その立体的かつ精密な映像を基に、手術操作を選択しますので、より微細な解剖に基づいた精緻な手術操作が可能なのです。さらにはビューアの外部の視野は除かれた状況です。

例えば、従来の腹腔鏡下手術だと術野を映し出すモニターの周りの景色も術者(手術をする外科医)の視界にどうしても入ってきます。それがメリットになることもあるのですが、一方で、ロボット手術だと3Dの高解像度映像以外は術者の視野には入りません。臨場感あふれる術野の立体映像のみです。
そのため術者は、術野に入り込んだかのようにまさに没頭して手術に集中できるというメリットもあると感じています。周りを認識することなく没頭しすぎるのもいけない場合もあるように、思われるかも知れませんが、そこは助手の外科医や手術看護師が患者さんのすぐそばについています。そして術者が没頭できるように、いろいろと術者をアシストするから大丈夫です。(もちろん術者も周囲の状況も確認しながら手術を進めます)
ロボット手術にはこのようなチーム力が必要不可欠です。

ロボット手術の様子です

図14-3
図14-4

当院で施行したロボット支援下直腸がん手術映像① ②

当院でのロボット支援下手術(直腸がん)映像①

当院でのロボット支援下手術(直腸がん)映像②

ロボット手術を受けて半年くらいの患者さんのおなかです

図14-5
あと少し。専門的なお話になってしまいますが・・・
治療の対象になっている直腸という臓器に対する手術という観点からみてみます。
直腸がんに、ロボット手術はとても有用であると考えています。
特に肛門に近い直腸がんに対する外科手術は、病気を治す根治性と大事な機能(肛門機能、排尿機能、性機能など)の、温存の両立が求められる手術です。
直腸は、骨盤腔内を通過し肛門管、肛門につながって行く臓器です。骨盤腔には、排尿機能・性機能といった機能をつかさどる大事な自律神経という神経線維が、直腸のすぐ近傍を走行しています。これが直腸の大きな解剖学的特徴です。
直腸がんの手術では当然、根治的切除が一番重要なことです。かつ、それらの自律神経系を温存し、肛門機能・排尿機能・性機能などを、根治度を担保しつつ温存することもとても重要です。それには骨盤臓器に対する臨床解剖の理解に基づいた精緻な手術操作が求められます。
直腸が走行する狭く深い骨盤の底でこそ、ロボット手術ならではの、先端自由度の高いデバイスを用いた、精緻な手術操作が活きてきます。

ロボット手術は、外科医がイメージする精緻な手術操作を、ロボットというテクノロジーにより、正確に体現してくれる術式です。
ロボット手術ならではの、精密な映像を基に選択される精緻な手術操作は、直腸がん手術の根治性と機能温存を、最大限に両立するのに役立つと考えています。

3.炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)治療方針

潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)

潰瘍性大腸炎は、クローン病とともに厚生労働省の難治性疾患に指定されている原因不明の疾患です。原則治療としては薬剤を用いた内科的治療が主体であり、治療成績も飛躍的に進歩してきております。しかしながら、内科的治療で十分な効果が得られなかった場合や、症状が増悪した場合には手術治療を行います。それ以外にも、中毒性巨大結腸症や大腸穿孔、大量出血をきたした場合、大腸癌が発生した場合などに外科手術を行います。

図15-1
潰瘍性大腸炎に対する手術術式は、術前の患者さんの全身状態や病状などに応じて術式を選択します。 大腸の穿孔などで緊急手術を行う場合や患者さんの全身状態が悪い場合には、大腸亜全摘(直腸以外)のみをおこない吻合を行わずに回腸で人工肛門をつくる場合もあります。
図15-2
原則的には、全大腸を切除した後に残った小腸でJ型回腸嚢(回腸を用いて作成した便を貯める袋)を作成して肛門あるいは肛門管と吻合を行います。また、一期的手術(1回の手術)で全大腸を切除して吻合を行う場合もありますが、しばらく吻合部を安静に保つために小腸による人工肛門を一時的に作成し、2回目の手術で人工肛門を閉鎖する二期的手術(2回の手術)を選択することが多いです。
主な吻合方法として①結腸全摘、直腸粘膜切除、回腸嚢肛門吻合(IAA)、②結腸全摘、直腸切除、回腸嚢肛門管吻合(IACA)があります。IAAでは歯状線近くまで直腸粘膜がすべて切除されますが、IACAでは少し直腸に粘膜が残ります。そのため、一般的にIAAではIACAと比較して、潰瘍性大腸炎の再燃や発がんの可能性が少なくなりますが、術後の排便機能はIACAより低下する可能性が高くなります。
図15-3
術後の排便機能は、IACAのほうがよく、IAAが多少劣ってきますが、IAAを行ってもQOL(生活の質)を著しく損なうことはありません。当科では、病変部をすべて切除するIAAを第1選択の術式としておりますが、術前の患者さんの状態や病状、希望などに応じて最終的な術式を決定しております。
さらに、当科では下部消化管手術の80%以上を腹腔鏡下手術で行っており、潰瘍性大腸炎の患者さんの手術においても、腹腔鏡補助下手術を中心に行っております。しかし、術前から栄養状態の悪い方や術前にステロイドなどの内科的治療を行っている方、腸管の炎症がひどくなっている場合には開腹手術を行うこともあります。当院では、患者さんの全身状態や病態に応じた手術方法を検討して手術を行います。

クローン病(crohn disease:CD)について

クローン病は潰瘍性大腸炎ととともに炎症性腸疾患のひとつであり、原因不明の難治性疾患です。クローン病では口腔内から肛門に至るまで病変が消化管全域に発症しますが、とくに、小腸や大腸に炎症や潰瘍を形成することが多いとされています。それによる腸管の狭窄や別の臓器とくっついて瘻孔を形成することにより、消化管に通過障害をきたして手術となることが多いです。また、長期にわたる病歴のある患者さんでは癌を発生するリスクも高く、手術適応となる場合もあります。原則治療として薬剤を用いた内科的治療が主体であり、レミケードの登場により手術が必要なことは減っていますが、難治例などには手術治療を行っています。
図15-4
クローン病による小腸・結腸狭窄や瘻孔形成に対しても、当院では腹腔鏡下手術を中心に行っています。しかしながら、術前の検査で複雑な瘻孔を形成している場合もあり、それぞれの患者さんの病態や全身状態に応じて開腹手術を行うこともあります。
炎症性腸疾患の治療では、重症例に対する内科的治療の限界もあることなどから、当院では消化器内科、消化器外科との間で十分な連携をとり、手術を行うタイミングを逸することのないように手術治療を行っています。


4.その他の疾患の治療方針

1.大腸穿孔

交通事故などの外傷によるもの、便秘によるもの、原因不明のものなどがあります。いずれも緊急手術が必要です。

2.直腸脱

肛門括約筋が緩んで、直腸全層が肛門から脱出する病気で、内痔核とは異なります。
従来、簡便な経肛門的手術を行っていましたが、この方法では再発することが少なくないため、2008年以降、当科では難治例に対して低侵襲で再発が少ない腹腔鏡下直腸固定術(Wells変法)を行っています。

3.内痔核

内痔核に対しては、従来、当科では坐薬などの保存的治療か手術療法を行ってきましたが、2010年より痔核に直接硬化剤を注入するALTA療法を導入し、良好な結果を得ています。

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